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リハビリもかねて黒ファイ小ネタ。
どこか別の次元の彼ら。
囚われ人ファイと、黒鋼。
ふ、と顔をあげた先。はらり、と花びらが落ちる。
鉄格子の向こう。小さく切り取られたような外の世界。
空、と呼ぶことさえも躊躇われる、小さく切り取られた外側を思って、ファイはそっと花びらを拾った。
気がついた時にはここにいた。閉じ込められている理由は知らない。
言葉を交わす人も、もう無く。
それでも生かされ続けている理由を知らない。
他の命の気配もないまま、生きるファイの世界に、一片、彩りが舞い込んだ。
次は花びらではなかった。
一輪の花。
黒い影が鉄格子に垣間見えた、と思ったら、花が落ちてきた。咄嗟に手を伸ばしてそれを拾い上げる。
淡い色合いの、美しい花。
名前も知らないその花をそっと枕元に置いて眠る。
朝には枯れてしまう運命だと分かっていても。
花びらを、花を。鮮やかな、小さな、色彩を。
ただ待ち続けて。
ある日、唐突に暗闇の中へと引きずり出された。
触れる外気はひどくつめたい。周囲は漆黒の闇に包まれている。
無言で誰とも知らない相手に手を引かれ、初めて仰ぎ見た月は、ただ美しかった。
目の前の相手の手にする、刃と同じ色。
言い聞かされるまでもなく、それが命を刈り取るための道具だと知っていた。
「あのね…、お花ありがとう」
先を行く男のもつ黒は、
「嬉しかったんだ、とっても…」
花の前触れの翳りと同じ色をしていた。
「だから…君が、オレを殺しにきたんだとしても、ありがとう、って言いたかったんだ」
闇色の中、男の手にする刃と、月が輝いていた。
いつかこの手の中に閉じ込めた花びらの色を思って、ファイは微笑む。
これだけ、美しいものをもらったのだから。命を奪われても、何の悔いもない。
そもそも、己の命にその美しさに見合う価値があるのか、定かではないが。
ただ、闇の中。
繋がれた手の僅かな温もりと、輝く月光と、煌めく刃。そのまま、命絶えてしまうことが、ひどく幸福なような気もしていた。