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ちまちま書き進めておりました。
大掃除を実行中。
年賀状を作成中。
師走ですな。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
常人には理解しえない数字と記号の羅列。その海の中をファイはふわふわと漂う。
0と1からなる無限の情報をまるで肌から直接吸収するように記憶し、理解する。
ふわふわと微睡にもにたその感覚から意識が覚醒したのはそんなに長い時間でもなかった。
そもそも電子の海ともいえる膨大な情報を扱うということは、その精査だけでも随分とエネルギーを消費してしまうものなのだ。安全面から、長時間にわたっての作業は基本的に禁止されている。
重く痺れるような頭を手で押さえ、むくりと起き上がる。眩暈を感じるほど酷いものではないにせよ、軽いとは言えない疲労を覚えボトルの水を行儀悪く口へと運んだ。
複数の企業に同時にアクセスしてみたが、さしたる成果はない。軍に提出されている報告書と大きく違う事実は確認できず、無駄足に終わったが、その無駄足が何よりだとも思う。
国家防衛を大義名分としてかかげる以上、軍は国家の有する最大の防衛戦力であり、そこに割かれる人員・物資は国家の責任において保障されるものである。そこに関わる以上、企業には国家本体への信頼関係の保障が求められるのだ。
仮に企業の軍への背信が明らかになった場合、その企業や背後組織を処分せねばならない。不信の芽など無い方がいいのだ。
生活の拠点として地上から人類が飛び立って既に数十年。
重力制御と慣性制御において、人間が宇宙空間で自由に殺し合いを出来るほど高性能な装置は実用化されていない。
未だに人々の争いは大地の上で行われている。
「惑星コロニーのさぁ、出生率って地上よりも低いんだってー。反対に病気は地上よりも数字が高いんだよー。特に精神疾患は地上に比べて平均8パーセント高いってー。
そういうのを聞くと人間って地面に足がついていないとダメな生き物なのかなーって思うんだけど、そこでやってるのは殺し合いなんだよねー」
「んなことをごちゃごちゃ考えんのは哲学者やら学者に任せとけ。俺たちの仕事は殺し合いだろうが」
「そんな物騒なくくりにしないでよー。犯罪抑止力だとか、国防だとかもっときちんとした建前が色々あるでしょー」
「御大層な大義名分なんぞ掲げたところで誰がそれを信じる。今時ガキでも絵空事だと分かるだろう」
ありったけの脳細胞を稼働させた仕事の後は、なんだかとりとめのないことを無性にだらだらと話していたくなる。
用がないなら出ていけ、と聞き入れられなくなって久しい小言を寄越す部下兼上司を華麗に無視して、ファイは黒鋼の個室のベッドで伸びていた。
気を張りつめていなくても良い場所はひどく安心出来て心地よい。結論など、望む答えなど返ってこないと分かっていても、低いこの声色をいつまでも聞いていたいと思う。
「絵空事でもさ、夢みたいなことでもいいじゃないー。そもそも夢みたいなことでも、理想がなきゃ人間なんてなーんにも進化しないよー」
黒鋼から答えは返ってこなかったが、彼が笑った気配がしてファイはなんとなく嬉しくなる。
ぱたん、とベッドの上で手を伸ばし、大きな手を指先でちょいちょいと突いてみた。固い皮膚の感触は軍人ならば似たり寄ったりだろうが、それが黒鋼の手だというだけで妙に頼もしい気がするのは何故だろうか。
我ながら懐いちゃったなあ、とぼんやり考える。
「たとえばさー…。ずっとずっと黒様の声を聴いていられたら、すごく安心するんだろうなーって思うよ」
なんだそりゃ、と今度こそ笑いを含んだ声がして、それにつられてファイもへにゃりと笑ってみせた。
大地の上に血を流す軍人でありながら、それと同時に大地を踏みしめて生きていくことに、自分たちはこんなにも安堵している。