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日本国永住設定です。
タイトルは「ひもとけて」と読みます。
春になり、氷がとける「氷面がとける」という意味と、共寝が許され衣服を脱がすために帯や紐を解く「紐が解ける」という意味の掛詞です。
どちらも愛情を持った相手に心を許す表現で、日本語っていいなあ、と思います。
掛詞とか縁語の美しさは他の言語ではなかなか味わえないのではなかろうか、とも。
古語辞典は読み出すと止まりません。
出版社ごとに纏め方とか図解の見せ方とか違ってて楽しいですv
源氏物語もちゃんと原文読みたいですね。
未だに桐壺と夕顔、空蝉、若紫、葵、賢木、薄雲、若菜、御法あたりしか読めてません。
いずれは全巻を原文で…!!
翻訳は円地、谷崎、与謝野、瀬戸内、今泉までは読んだんですが、一番最初に読んだのが谷崎訳だったので今でも真っ先に読み返してしまうのはこれです。
以前古典系サイト作りかけたこともあったんですが、当時使っていたパソコンがクラッシュして諦めました(涙)
「万葉集」「古今和歌集」なんかの和歌選や「狭衣物語」まで纏めかけていたのに…。
源氏物語は未だに主要登場人物関係をそらで言えます。
ただし同じ趣味の人はあまりいないのですよ(苦笑)
どなたかー、古典オタクも兼ねていらっしゃる方はいませんかー!!
小話は下からどうぞ。
誰が言い出したものやら。
「あの乱暴者がどんな顔をして口説き落としたのか」
ぽつりと落とされた言葉に、一斉にファイに視線が注がれた。
このところ侵入者も魔物の襲撃も聞かれず、上座で寛ぐ姫巫女を筆頭に皆が長閑な昼下がりを満喫していた。
女性が集まれば雑談の中身も自然と恋愛関係が中心になってくるのか、可愛らしい話からちょっとした人生相談のようなものまでが和気藹々と話題に上がっていたのだが。
小さな興味は波のようにざーっと一座に広がった。
不躾にならぬよう抑えてはいるものの、皆興味津々の面持ちは隠せないでいる。
不機嫌な一瞥を寄越しただけで鬼も裸足で逃げ出しかねない忍者の凶悪な人相を思い出しているのだろう。
主たる姫君は、まあ、と面白そうに笑い声をこぼすだけで助けてくれそうにはない。
むしろ、笑んだ瞳が雄弁に「私も聞きたいですわ」と訴えかけてくる。
逃げ道はなく、黒鋼は相当嫌がるだろうがこれはちゃんと言わないといけないなあ、とファイは自分の記憶を辿る。
が、旅の記憶、日本国の記憶、どれを浚ってみても。
「…あれ?」
首をかしげる。だが、自分の記憶のどこにもそんな覚えはない。閨の睦言にしても然り。
興味で目が輝いている一堂に、にっこり笑う。
「そういえば、特に口に出して言われたことはありません」
紆余曲折はあったが気がついた時には触れ合うこと、抱き合うことを互いに許していた。
こうして口にして初めて気付く。自分と相手の間には言葉で結んだものがないことを。
そしてそれがけして寂しいばかりではないことも。
そもそも簡単にそのような言葉を寄越すような人でもないのだし却って『らしい』、とファイは至極納得していたのだが皆が口々に黒鋼への非難の声をあげる。特に年若い女官などは我が事のように相手に対して怠慢なのだと憤慨していた。
黒様信用がないなあと言いながら、ファイはヒラヒラと手を振ってそうではないのだと笑う。
「でもね、オレは…」
黒鋼のことを思えば胸の内から暖かいものが染み出す。
鏡でも覗かないかぎり自分の顔は見えないのだから、ファイにはその時自分がどんな笑顔を溢していたのか知るすべはない。
ただ、それに皆が見入って出来た沈黙に滑り込むように、すとんとファイの言葉が落ちた。
「言葉よりももっといろんなものをもらいましたから」
日本国の者は、特に白鷺城に仕える者は、旅に出る以前とは言え黒鋼といえば血潮を浴びて哄笑する荒ぶる姿、その魂までも恐ろしい男だと脅えさえ覚えていた。
けれど、蒼い瞳の佳人は笑う。幸せそうに。
世界の愛しさ全てを惜しみなく溢れさせて。
春の陽だまりのような笑顔。
誰かにこんな風に愛しく思わせることの出来る者ならば、きっと恐ろしいだけの男ではないのだろう。
「あてられましたわねえ」
おっとりとした姫の声が皆が言いたくても言えなかった胸の内を代弁した。