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お待たせして申し訳ない。
早出が続くと微妙にHP削られていくのです。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ。
「まあ」
涼やかな声が淡い色の唇から零れた。しゃらり、と簪の揺れる音がその声を追う。
それよりもかそけき衣擦れと、衣の上をさらさらと滑り落ちていく烏羽玉の髪を見つめるのは護衛の女忍一人だ。
平伏して姫巫女の反応をうかがう使者の耳に届いたのは、困った方ですわね、という姫巫女の声だった。
呆れたような、困ったような、…あるいは可笑しがっているような。不思議な声の真意を問うのは無礼である。
ファイの元へと侍女が一人の女性を連れてきたのは白鷺城あてに文を送ってから幾日か過ぎてだった。
親がかつての諏倭の生まれであり、諏倭の復興が軌道にのったのを伝え聞いて、このたび老いた親を連れて移り住んでくるようになったのだと侍女は説明した。
「屋敷仕えの者の遠縁でございますゆえ、身元もしっかりしております」
そう言い添えた侍女にファイはこくりと頷いた。
はっきりと言いはしないが、彼女が黒鋼の側室候補として選ばれたのだろうことは想像に難くない。あらかじめ白鷺城に文を送ってあるから、侍女の独断ではないだろう。
おそらく、知世が黒鋼の傍に女性を置いた方がいい、と判断したのだろう、と想像した。
「初めまして、ファイと言います。みてのとおり、異国の生まれなんですけど、諏倭の巫女をさせてもらってます」
慌てて頭を下げようとする女性を手で軽く制して、ファイはその姿をじっくりと見た。際立つ美貌ではないが、人好きのする柔らかな顔立ちと空気になるほど、と納得する。僅かに赤みの差した頬色も健康的で、少し緊張はしているがその表情に陰りはない。
彼女ならば、黒鋼と一緒にいてもらって、彼の幸せの一端になってくれるだろうか、と無理矢理に自分を納得させた。
女性を下がらせた後、侍女がファイに真正面から向き合う。
「巫女様。それでは、あの娘にご領主の伽を命じてもよろしゅうございますか」
ひたりと目を見据えられて、ファイは思わず言葉を呑む。そのために選んだ女性のはずだ。
是、と答えるはずの声が出ず、ファイは無言でこくりと頷いた。
「では、今夜ご領主へ酒杯を運ばせる役目はあの者に命じましょう。かりにご領主がお気に召されず、お手付きにならないこともございますので、あまり大っぴらに話す必要はございますまい」
「ん…。上手くいけばいいんですけど…」
曖昧に言葉を濁したファイに、それ以上侍女は何も聞いてはこなかった。