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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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20万ヒット記念フリリク企画です。
渫木真様リクエスト「日本国永住で、ファイが黒鋼に三行半をつきつけ、行方をくらます」お話です。

ハッピーエンドでもバッドエンドでもいいです、とのことでしたが、バッドエンドは基本的に書かない主義なのでこんなお話になりました。
そろそろ私の中の日本国永住のファイが、開き直った熟年女房のようになってきているので、可愛げが無いことに…!
熟年夫婦な黒ファイもいいですね。


拍手ありがとうございます。

では下からどうぞ。









いつも整然と整えられた室内。
けれどそこに違和感を覚えるのは、その人気の無さゆえではない。
ただ出迎える声と姿がないことならばさして珍しくもないのだ。気まぐれな姫君の呼び出しか、あるいは散歩を兼ねた買い物か。無頓着なほど気軽に出かけては、先に帰ってきていた黒鋼に飛びつくように帰ってくる。
しかし、今この家には黒鋼以外の気配が存在しない。
単純にどこかへ出かけているわけではないようだ。

文机の上に置かれた紙をそろりと手に取る。三本、真っ直ぐにひかれた線の横に一本だけ短い線がひかれている。墨はすっかり乾いていた。
まだファイは日本語が上手く書けない。そのくせ妙な知識はどこからか仕入れてきたりするものだから、時折黒鋼の思いもよらぬことを仕出かす。
慌てるよりも先に黒鋼の口からぽろりと零れたのは、「三行半なんてどこで覚えてきたんだ」だった。


すぐに踵を返し、白鷺城の奥に住まう主の元へと黒鋼は足を運んだ。先触れも寄越さずに強引に進む黒鋼の姿を無作法な、と咎めはしても実際に止めようとする者はいない。
今では以前ほど粗暴な振る舞いは鳴りを潜めたといえ、黒鋼が一介の忍では許されない振る舞いを主の気安さゆえに許されているのは周知の事実だ。
加えて何かと公にならない特殊な使命を黒鋼が受けていることをどこからか漏れ聞いている者も多い。姫巫女相手だからこそ、「火急の用」だと言われてしまえばその行く手を遮ることは出来ないのだ。
がらりと無作法を承知で声をかけることもなく襖を開けると、珍しく困惑顔の姫巫女が居住まいを正していた。どうやらファイが姿を消したことは伝わっているらしい。
「緊急で関所の封鎖はさせたぞ」
事後承諾ではあるが、黒鋼の無理に結果的に頷いた伝達係を思い出す。これが姫巫女や帝絡みの差配で行われた悪戯ならば、そもそも黒鋼がいくら無理難題を通そうとしたところで(それが無理難題でなくても)無意味なのだから、今回は姫巫女が直接関わったことではないのだろうと考えたのは正解だったようだ。
分かりました、と知世が頷いたのを確認して黒鋼はどっかりと腰を下ろした。無論許しは得ていないが、今更にそれに頓着する間柄ではない。
「書き方も知らねえくせに一丁前に三行半なんぞ置いていきやがった」
ぴらりと不機嫌さを隠しもしない態度で寄越された紙に知世は目を通す。
日本国では農民であっても多少の読み書き算術は出来る者が少なくはない。だが、やはり全ての民がそうではないのだ。生れついた場所か、その後の生活ゆえか。文字を全く読めない者もいれば、数を十以上数えられない者もいる。無論、そんな集落にも一人か二人は読み書きや簡単な計算が出来る人間がいるが、それで他の者全ての代わりが出来るわけではない。
けれど租税や夫役などで公式な届が必要な時には必ずその証を書いて示さなければならない。
三行半と呼ばれる離縁状もその一つで、ファイが書いて残した三本半の線は、そうした文字の読み書きが出来ない者でもその意思が示せるようにと考えられた略式の離縁状として知られている。
そもそも夫婦じゃない、という黒鋼の胸の内は置いておくとして、ファイの三行半を突き付けられた知世は憂い顔でそっと溜息を零した。
淡い桜色の唇から零れる吐息を貴族の公達が見たならば揃ってその美しさを称え、歌に詩にとしただろうが、生憎姫巫女の前に腰を落ち着けているのは黒鋼だ。事情を知っているならさっさと言え、とばかりに不遜な態度を隠しもしない。
「…以前お話したことがありましたでしょう。貴方の縁組について」
ぴくりと黒鋼の眉が動いた。本人の態度の悪さからかあまり派手がましい縁談は持ち込まれたことはないが、それでも姫巫女の傍近くに仕え、尚且つ、かつて諏倭と呼ばれた領地の唯一の後嗣だ。本人の人となりはともかく、姫巫女と帝の信任が厚いその一点だけであっても、権力の恩恵に預かろうと願う者にはまたとない人材だろう。
幾つか断ったうちの縁談の中でも殊更に強引だった家名を出されて黒鋼の顔が心底嫌そうに歪む。権勢の振りかざし、居丈高に振る舞うのが鼻についてしょうがないと思った相手だ。
「私の方にも幾度も貴方を説得して欲しいと頼み込んでおりましたから…。おそらくはファイさんにも何か言ってきたのでは」
確定に近い推測に姫巫女の語尾が弱弱しく消える。
おそらくは知世の考えた通り、ファイ本人に身を引くようにとでも言ってきたのだろう。
簡単に想像出来て、むしろ面白みにかける連中だと黒鋼は思った。

だが。
「それであっさり引くようなタマか。あれが」
「え?」
黒鋼の声に、知世が軽い驚きでもって顔を上げる。
「俺が顔も合わせたことがないような相手と結婚した方が幸せになれる、なんて馬鹿げた話を他人から聞かされた『その通り』なんて納得するわけねえだろ。
精々『ああ、また妙なこと企んでるな。よし、からかっとけ』くらいだ」
まあ、と知世が口元に手を当てて可笑しそうに笑う。憂い顔よりも晴れやかな笑顔の方がずっと似合う姫なのだ。
黒鋼の言わんとすることに気がつき、たしかにそうだと姫巫女は思い直した。
「一旦は身を引くふりをして見せて、…それを貴方が追ってくださることを相手に見せつける算段でいらっしゃるのですね」
「そういうわけだ」
頷くと後の黒鋼の行動は素早い。姫巫女の許可を得て厩から駿馬を選ぶと、封鎖した関所の一つを目指して走り出した。
以前ちらりと見てみたいとファイが言っていた、特産の細工物が有名な里がその関所の近くにあったはずだ。

関所で優雅に茶を啜って黒鋼の到着を待っているであろうファイの姿を思い起こす。
迎えに行った黒鋼の姿を見つけて、にやりと悪戯が成功した悪童のような笑みを浮かべるだろうことまで想像した。


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