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年末で否応なしにやることが降り積もります。
せっかくの休みも病院でつぶれる…。診察二時間待ちで薬は三十分待ち。
こないだも相棒からの電話に凄まじい勢いで愚痴をぶつけた気が…する…。(目を逸らし)
拍手ありがとうございます。
荒んだ心にいっぷくの清涼剤。いや、私ジュースあまり飲まないからアルコールにしとこう。
では下からどうぞ。
泣き腫らした瞼が真っ赤で痛々しい。
もっと気の利いたことでも言って慰めてやりたいのだが、今は怪我の手当てが先だった。
乾いた血を水できれいに洗い流す。真っ白な肌の上、一直線にすっぱりと傷口が開いている。
密かにほっとしたのは腕の大事な組織を傷つけるような傷ではないと分かったからだ。
よく研がれた刃物でだったので、直後の出血は多かっただろうが、鋭利な刃によってついた傷だけに塞がるのも早いだろうと思った。痕も残らなさそうだ。
「しみるぞ」
温めた焼酎を浸した布でそこを押さえると、やはり痛かったのだろう。ファイの口から小さく声が零れた。
心配そうにユゥイが脇でじっとその様子を見つめている。
胡坐をかいた黒鋼の膝の上に乗せられたファイは時折痛みに顔を歪ませ、それでも大人しく黒鋼が怪我の手当てを終えるのを待っていた。
膏薬を傷口に塗った上を油紙で抑え、清潔な布で小さな腕を巻いていく。傷を負うことが当たり前の忍であるだけに治療など手慣れたものではあったのだが、どこもかしこも頼りない小さな体ではうっかりすると壊してしまいそうで、黒鋼も思わず慎重な手つきになっていた。
布の端をきゅっと結んで解けないようにしてから、血で汚れた着物を着せ替えてやる。
「これでしまい、だ。解くなよ」
「うん」
帯を結んでやりながらそういう黒鋼の言葉に、ファイは素直に頷いた。
「たいしたことはないが傷の範囲が広かったからな。今夜はもしかしたら熱が出るかもしれねえ。熱が出たり、傷口が痛むようなら言え」
返事がない。
どうした、と顔を少し上げると大きな二対の蒼い瞳がきょとんと黒鋼を見つめる。
「あのね、黒様」
「本当…?」
思わずたじろいでしまいそうなくらいにまじまじと真正面から見つめられて、黒鋼が困惑する。
こてり、と揃って首を傾げられても、黒鋼にはいったい何を言われているのか分からない。
「ん、とね…痛かったら黒様に言ってもいいの?」
「具合悪いのも、言っていいの?」
当たり前だろう、と思った黒鋼の表情をどう思ったのか、双子は不安そうに口ごもった。
「…おそうじ、ちゃんと出来なかったのに、いいのかな、って…」
「…怪我して黒様たくさんめいわくだったのに、いいのかな、って…」
どれもこれも仕方ないことで、そんなに気に病むことではないだろう、と黒鋼は思ったのだけれど。
双子たちにはどうやら違うらしい。
へにゃりと情けなさそうに眉を下げて視線を落としてしまう。
「あのね…ファイとユゥイはね、要らない子どもだったんだ」
「元の国じゃ、呪われた子どもだから…ファイとユゥイは『いない』っていうことにされてたの」
「だから誰かがいても話しかけちゃいけないし、具合が悪くなっても言ったらダメだったんだよ」
「熱があっても、苦しくなっても…いない子だから、熱も苦しいのもぜんぶ『無い』ことだったの」
黒鋼は、皮膚の下、心臓に氷をつき立てられたような心地がした。
実際に見てきたわけではない。けれど、脳裏にはっきりと、寒々しい世界で互いに身を寄せ合っていた二人の幼子の姿が浮かんだ。
かつての二人の故国は(便宜上故国と呼ぶことすら厭わしい国だが)自分たちが手を下すことなく、関わることなく、ひっそりと訪れる二人の『死』を願っていたのだ。
「いいの?」
「黒様には、言ってもいいの?」
「ああ。ちゃんと言え」
そう答えても、二人は不安そうに瞳を潤ませている。
「あのね、そしたらね…」
「もしかしたらね…」
『寂しい』も、言っていいの?
驚きに目を見開いた黒鋼の前で、双子は捨てられる寸前のような目をしていた。
きっと、精一杯の勇気を出して聞いたのだ。
我がままにも満たない、ほんのささやかな願い事。
咄嗟には言葉が出なかった。
自分たちで言った端から不安に襲われているのか、ギュッと小さな手が握りこぶしを作っている。
黒鋼は聖人君子などではない。むしろ、暴力と殺戮に明け暮れるような、憎しみや血の匂いにまみれた男だった。
けれど一端自らの懐に入り込んだこの稚い生き物を放り出す気など、とっくにない。
「馬鹿かお前ら」
ふに、と柔らかな頬を軽く抓んで引っ張ってやると、双子が驚いて瞳を瞬かせた。
「そういうことは我慢すんな、餓鬼が」
言葉の意味を理解した子どもたちの瞳が一層大きく見開かれる。
何度もぱしぱしと瞳を瞬かせて、一生懸命黒鋼の顔のどこにも嘘が無いのを見て、それからようやく本当のことだと信じられたらしい。
慌ててぶんぶん、と首を縦にふるものだから、うっかり「もげそうだ」なんて思ってしまう。
何度も何度も頷いて、それから二人揃ってはにかんだ顔を黒鋼に見せた。
小さな、小さな、願い事に、ようやく微笑みが溢れた。