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そろそろ双子も思春期にさしかかろうよ。うん。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
日暮れが近づくと、双子はそわそわと襖を何度も見る。
潮風の吹く浜辺に松が枝をはっている墨絵の襖は名人の手から成るもので、その濃淡の美しさは見事なものであるがどれほど分かっているのやら。ちらちらとそれを見上げ、しまいにはじっと見つめてしまう。
何も墨絵の美しさに見惚れているわけではない。待っているのだ。黒鋼の帰りを。
知世とおやつを一緒に食べ、ご機嫌で絵物語を聞いていたのは日が高い間で、蒼い空の端に紫がかかると途端にそわそわと落ち着かなくなる。
戯れに絵を描いていた紙はそのままに、筆を握り締め同じ顔が襖を凝視して動かない。
知世付きの侍女たちもそんな時は双子に声をかけずに見守る。最初は様子を心配して何くれと無く声をかけていたのだが、気もそぞろな双子が黒鋼の迎えを待ち侘びているだけだと分かってからはむしろ微笑ましいとさえ思っているようだ。
けして大きくはないが規則正しい足音が遠くから聞こえてくる。
戦闘中はいっそ見事なほどに足音を消し去る忍であるが、先触れもなく唐突に主の元へと押しかけるような無粋な真似はしなくなった。血気盛んな以前ならば、そのような無法すらどうとも思わない振る舞いを度々していたものだが、双子と共に生活していることで、黒鋼も随分変わったようだ。
足音が聞こえだすと双子は慌てて手にした絵筆を持ち直し、描きかけの絵に没頭する「ふり」をする。
けれどその全神経は耳に集中させ、黒鋼が襖を開けるのを今か今かと待っているのだ。むずむずと肩が落ちつかなげに揺れていた。
「入るぞ」
声がしたのと同時に双子の顔が勢いよくあがる。
襖の開いた瞬間、絵筆を投げ捨てるような勢いで黒鋼の元へと小さな塊二つが突進していった。
「お帰りなさい!」
「あのね、あのね、お絵かきして待ってたの」
ちゃんとお利口にしてたよ、えらい?えらい?と口々に言うのを黒鋼は適当にいなしながら、双子の体を抱き上げた。
双子が得意そうに自分たちの描いていた絵を黒鋼に見せる。
「知世姫をね、描いたの」
「頑張って描いたのー。可愛い?」
姿の愛らしさとは裏腹に主が存外容赦なく手厳しい性格であることを知っているだけに黒鋼はすぐさま頷けなかった。知世に情け容赦が無いということではないのだが。
返事に窮する黒鋼に双子はへにゃん、と眉を下げてしまう。
「ちゃんと描けてない…?」
「上手じゃない…?」
「いや、よく描けてる」
不安そうに黒鋼の顔を窺う双子に苦笑を溢しながら慰めると、途端にぱっと笑顔が咲いた。えへへ、とはにかんだ顔を黒鋼の肩に押し付け、ぎゅっと抱きついた。
後で主やその付き人のからかいの種になるのであろう、と想像しながらも、黒鋼にはどうにもその小さな温もりが引き剥がせない。
少々居心地の悪い思いをしながら主である少女を見ると、実に優しい顔をして微笑まれてどうにも居たたまれない。
けれど不思議と悪い気もしないのだった。