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では下からどうぞ。
旅支度を始めるならば早い方が良い。
干し肉や干し魚、野菜を乾燥させて固めたもの。幾許かの路銀と薬。火打ち石も、と旅に出る黒鋼よりも双子の方が一生懸命に荷造りを始めた。
とはいっても双子とてこの地から出て行ったことなどない。かろうじて残された古びた書物や、ごくまれに訪れる旅人の様子から外界の暮らしを想像するだけだ。
それだけでも自分たちの暮らすこの世界とは、全く異なる世界が広がっているのだと分かる。
予期せぬ危険も災いも多いだろう。命を危ぶむようなことも当然あるはずだ。
何度も何度も止めたいと、行かないでほしいと願い、口に出しそうになってははっと飲み込む。
呼吸よりもそんな風にして言葉を飲み込んだ回数の方が多くなってしまいそうなほど。
「お前ら…俺を荷物で圧死させる気か」
呆れたような黒鋼の言葉におや、と気がつけば、ユゥイとファイの二人して作った保存食やら薬やらは結構な量になっていた。
黒鋼であっても到底一人で抱えきれるものではないだろう。
それにも気がつかないくらい没頭していたらしい。
「おやおや~」
「おやおや、じゃねえだろ」
今更に自分たちの作りこんだ量に気がついたのであろうファイは首をこてりと傾げている。本気で気がついていなかったようだ。
足の踏み場もない、と嘆息する黒鋼にユゥイが照れたように笑う。
「だって心配でつい…ね」
「いつまでもガキ扱いすんなよ」
少しだけ柔らかくなった黒鋼の声が愛しいと思った。こうして他愛のない会話も、やがて終わる時がくるのだ。
「こども扱いじゃないよ。オレたちが寂しがってるだけ」
「そうそうー。ここを出たらさ、黒たんも新しい世界に夢中になったりするでしょー。で、故郷に帰ったら可愛いお嫁さんでももらって幸せに暮らしちゃってー。そしたらオレたちのことなんか忘れちゃうかもーって思ったら寂しくてー」
寂しさを紛らわしたかっただけだよー、と誤魔化す双子に黒鋼はやはり呆れた表情を浮かべた。
旅に出る前からそんなことを心配してどうなる、というところだろう。
呆れたような、少しだけ優しい顔をもう少しだけ見ていたくて、ファイもユゥイもただ笑った。
これが終の別れだとしても、手を離さなければいけない。
だからこそ、ファイもユゥイもその時には、やはり笑いながらこう告げるのだ。
「行ってらっしゃい」