[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
堀鐔の先生たち。多分それなりに出来上がってる感じで…いや、出来上がってなくてもそれはそれでおいしい。
使用しているお題サイトさんが今現在、ちょっと接続できなくなってます。
早く直ると嬉しいのですが。
02.髪の短いラプンツェル
「ラプンツェルっていうのは、悪い妖精さんに略取監禁されて育てられた女の子がダラダラに伸びた髪の毛をおろして妖精さんの入室を手伝わされてるときにたまたま塔の側を通りかかった王子様に一目惚れされて騙されて室内に押し入られた挙句色々いたされて二人で逃亡を画策してる最中に子ども出来ちゃったのが妖精さんにバレて塔から追い出されて女の子が一人ボロボロのまま荒れ野で子どもたちを育てる話」
「……」
「あ、でも妖精さんに目を潰されて延々と荒野をさ迷ってた王子様と偶然会えて、ちゃんとハッピーエンドになるんだよ」
「その話でどうやって」
化学教師の要約したお伽話が、大筋こそ間違ってこそないものの本来意図されていたであろうイメージから程遠い物になったことは想像に難くない。
たとえ元の話を知らなくても。
「でもオレはラプンツェルが羨ましいよー」
今の話のどこに憧れを覚えられるというのか。雄弁に「お前の言ってることが理解できねえ」と語る体育教師の視線にファイがヘロリと表情を崩した。
「そりゃ最初はそんなつもりで招き入れたんじゃなくても妖精さんに見つかる危険を省ずに自分に会いに来てくれちゃったりさあ、外の世界に連れてってくれようと頑張ってる王子様見たらラプンツェルだってほだされると思うんだよねぇ」
いつか自分だけを選んで、ここではないどこかに連れてってくれる誰かがやって来るのを待つ。
「ロマンチックじゃない?
お伽話は女の子の夢の宝庫だもん」
「連れてって欲しいのか」
まるで他人事の様に語るファイが解せなくて黒鋼は自分でも気がつかないうちに尋ねていた。羨ましいと言ったのは自分のくせに、端から自分には関わりのないことと決めつけているような態度は気に入らない。
「…連れてってくれるの?」
今だって、そんな言葉が返ってくるだなんて思いもしなかったように目を見開いている。
「オレ髪も短いし女の子でもないよ」
すぐにいつものように軽口めかせて微笑んだつもりだろうが、刹那によぎった期待と寂寥感に滲んだ声を看過する黒鋼ではない。
「言っとくが塔もなけりゃ妖精とやらもいねえよ」
「でも、もし閉じ込められて…オレが外に出てこなくなったらどうする?」
現実はそうではないと知っていながら、それでも、「もしも」の話に願望を託す。こうあればいいと思う夢や望みの何もかもを否定することは簡単だろうけれど味気ない。
誰だって望みに合致する答えが欲しい。
そろそろ微笑では誤魔化しきれない感情の機微やそれを読み取れるようになってきた互いの関係性を思い知ればいい。
無論、甘い言葉などくれてやる気はないのだが。
「首根っこ掴んで引き摺り出してやる」
ぱちぱちと音がしそうなほどに瞬きを繰り返した後、体に黒鋼の言葉が染み込んでいくようにファイが破顔した。
いつもの微笑ではなく、内側から思わず溢れ出したような笑みだった。
「―うん。オレもね、『誰か』より黒様が良いなー」
王子様でも塔の上の孤独な少女でもないけれど、体育教師と化学教師の締めくくりもそれなりにではあるのだ。多分これからも。
五つのお伽噺
capriccio(http://yucca.b7m.net/capriccio/index.htm)