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設定練ってたら長くなったのですが、次か次の次で終ります。
100000HIT記念リクエスト企画もこれで最後です。遅くなって申し訳ありません。
渫木 真様リクエストの「敵同士な軍人黒ファイ」です。
設定の妙に萌える反面、その手の知識の無さにあわあわしながら資料を探して流し読みしました。
皆様、拙いブログの企画にお付き合いくださりありがとうございます。
拍手ありがとうございます。
それでは下からどうぞー。
その男を初めて見かけたのは酒場で設けられた席でだった。
面倒な任務を終えたばかりの祝勝会だったはずで、普段は統制のとれている軍人たちが羽目を外して喧嘩沙汰になったのに割って入ったのがその男だった。
軍人として鍛え上げられたはずの男たちを軽々と引き離すと、鋭い目をしたその男はにやりと笑ってみせた。
酔っ払っている軍人たちも強く反発をしなかったところをみると、この基地ではそれなりに有名人らしい。着崩していた軍服のおかげで所属部隊も階級もわからなかったが、身のこなしや周囲の反応からどうやら一目置かれているらしいことはひしひしと伝わってくる。
酒の席で拳を持ち出すなんざ馬鹿らしい、どうせならこれで決めろ。そう言ってグラスを大きな手のひらで揺らした。
喧嘩に白けかけた空気が突如として提案された飲み比べに一気に盛り上がる。
耳を劈く男たちの盛り上がりもファイの耳には遠く、グラスを揺らす大きな手の甲に一文字に走る傷跡が脳裏に焼きついた。
思わず見つめていると、男の視線がす、と上がった。
赤い瞳が自分を見つめたような錯覚に陥って、ファイはその男から瞳が離せなくなる。
携帯端末の画面がちかちかと明滅を繰り返す。
幾重にも仕掛けられた防御網を易々とかいくぐり、膨大な資料が羅列されるその中を必要な物だけを探して蒼い瞳が情報を己の脳内に書き写していく。
暗記。
大容量の記録を全て正確に把握するのならばともかくも、必要な最低限の情報のみであれば実は古典的かつ単純な方法の方が証拠を残さない。
どんなに入念に調べたとしても不正アクセスの痕跡を見つけ出せるか出せないか、それすら微妙だろう。
そのくらいは容易くやってのける自信がなければこれまでの情報戦などとても生き残って来れたものではない。
電子の海におけるファイの戦績は公になっているものでもかなりの数に昇る。公になっていない、あるいは「してはいけない」ものまで含めれば既に本人にもその数など把握は出来ない。
支給された携帯端末の機能だけでは飽き足らず、自分でカスタマイズを行うのも既に慣れたものだ。
もっともそれを使用して行うのが正規の職務ばかりとは限らない。
その忠誠が必ずしも軍に向けられているわけではないことを、ファイ以外が知らない。
機密事項を探り、必要に応じてそれを外部に漏らす。あるいは情報の書き換え。
ファイにとっては正式な仕事とも言えたが、軍における規定で言えば重大な背任行為どころではないだろう。
罪悪感は感じない。
危機感を覚えるほど、杜撰な仕事をしたこともない。
誰がどう見ても、どう調べても、ファイの行った痕跡はなく、そもそもまるで元からそこにあったようにある日忽然と機密事項は別の場所に現れ「機密」でなくなる。
あるいはその逆に、全く別物に置き換えられてしまう。
誰もそれに気がつかないのだ。
気がつくのは事が終ってから。もしくは既に始まってしまってから。
誰の仕業かも分からない。あまりに鮮やかな手並みに、姿の見えない侵入者を一部の者は「ウィザード」と呼び始めた。
それを聞いた時にファイはらしくもなく一人で笑ってしまった。
同じだったのだ。自分に与えられたコードネームと。
軍に身を置きながら、ファイは軍のものではない。
人気の絶えた凍える町の片隅から拾い上げられた時から、この命は自分の物でさえない。
だって、ファイはもうとうに決めてしまったのだから。
たった一人の主の他に、己の命を捧げるものなどありはしない、と。
必要かそうでないか、情報は常に玉石が入り混じっている。
蒼い瞳がそれを見分ける速度は常人の数倍ほども早い。
鮮やかな手際でシステムの不備のみを見つけ出し修正していくファイの手つきと処理速度を呆気にとられて見ているものもいる。
ファイの部下として配属されてくるからにはそれなりにコンピューターの制御取扱に長けているか、情報処理に優れているかなのだが、それでもこの上官の異能振りには驚かされるらしい。
自分の仕事が終って画面から顔を上げたファイはぽかんと口を開く部下に気がついた。
仕事は?終ったのかな、と促すと大慌てで自分の仕事に取り掛かる。
周りでは既にファイの仕事ぶりに慣れた別の下士官が首を竦めていた。何人かが笑いを噛み殺している。
新しく人員が配属されるたびに見る風景だ。
けれどファイ自身この基地に配属されて長いわけではない。最初の数日の仕事ぶりにおいて見事に配属先の部下全員の予想をよくも悪くも裏切ったファイだが、未だにその突飛な有能ぶりは度々周囲の人間を驚かせる。
唯一良い点は部署が部署なだけに、機械マニアやらコンピューターオタクやら個性的なメンバーが多いのでファイが多少変なことをしてもあまり皆が気にしないことだ。
士官食堂に出向こうかとも思ったが、少し早い気もする。
時間つぶしと情報収集も兼ねて、ファイはこの基地の資料を読み込むことにした。無論、この場合は表向きのだ。
何をするにしても自分の今立っている足元の情報を知っておくに越したことは無い。
基地司令官から佐官、尉官、中隊、小隊の編成を見ていく。
中央から外れているとはいえ、まったく前線となることが無いわけではない。規模としては中程度のものだ。それなりに数の多い人間の中、ひと際目立つ顔写真を見つけてファイはコンソールに触れていた手を止める。
画面の中でもひと際目立つ赤い瞳がファイを睨みつけているようにも見えた。