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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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危険信号完結です。
終わってみれば黒ファイってか黒VSファイ?
黒ファイ要素の甘さが全くないお話になりました。

後で補足的な番外編書くと思います。てか書かねばならない気がする(笑)

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞー。








瞳を開いて真っ先に見るのは天井だ。
ゆっくりとファイは現状を把握しようと頭の回転速度を上げる。そして唐突にそれが全くの無駄だということを思い出した。
アシュラは死んだのだから。
涙はもう出ない。とっくにそんな段階ではない。悲しみも何もかもを通り越して、全てが遠かった。
ファイの体は逃げ出すことの出来ないように拘束されている。もっとも逃亡を阻止するためではなく、ファイが点滴をはずさないためという意味合いの方が大きいかもしれない。
食も言葉も拒否したファイには栄養剤と鎮静剤が強制的に投与されている。
それすらも拒むことのないように、睡眠剤も一定量が投与されていた。
こんな自分を生かしておく意味などないというのに。
自嘲の笑みが浮かんでくるのを止められない。
自分を捕らえた黒鋼の部下が時折ファイの元へやって来てなにかと声をかけていったが、ファイはその全てと関わることを放棄した。
アシュラとセレスが存在しない時点で、ファイが存在する意味もなくなったのだ。

ファイが目覚めたのが伝わったのだろうか、しばらくすると扉の開く音がした。けれどそれにももうファイは反応しない。
瞳を閉じたまま、簡素な寝台に横たわったままだった。
いずれここを出て行く時には、ファイには反逆者としての烙印が押されその先行きは軍法会議にかけられるか、あるいはこのまま処刑され死体として出て行くのかのどちらかだろうと思った。
それで構わないと考える。
それまで生かしておくつもりでこんな処置をされているのだとしたら随分無駄なことだとそっと笑う。
来訪者は側に近づく気配が無い。医官か黒鋼の部下だろう、と思ってファイ放っておくことにした。
だが、次の瞬間耳に飛び込んだ声を無視は出来なかった。
「起きろ。目覚めてるんだろうが」
「…!」
気がついた時には黒鋼がすぐ側まで来ていた。足音も、近づく気配も何もなかった。
目を見張るファイに構わず、黒鋼は腕を組んだまま壁に凭れかかる。
「お前の処遇が決まった」
真っ直ぐにこちらを見据える黒鋼の瞳にファイは動けない。
ファイが何もかも拒否しているということを知らないわけでもないだろうに、黒鋼は無言でいるファイをとくに気にした風でもなく言葉を続ける。
「お前がセレスから命じられていたこと、その任務によって知りえた情報、全てを外部に漏らさない条件付きで不問に処す、だとよ」
他人事のように言ってはいるが、この命令が基地の司令官から出たとは到底思えない。上層部か更にその上か、と考えをめぐらせてその無意味さにファイは気づく。
黙ったまま目を閉じた。黒鋼には拒絶の意思が伝わっただろう。
呆れたような溜息が一つ聞こえた。ファイの能力を惜しんで飼い殺しにしたいのだとしても、それに唯々諾々として従ういわれは無い。
自ら従うと決めた人はもういない。生きる意味も失った屍が、これ以上何を惜しんだりするのだろう。
どうだっていいのだと、自暴自棄な気持ちだ。
しばらく、どちらも無言でいた。その沈黙を破ったのは黒鋼の方だった。
ふう、と溜息に似た吐息が幽かに聞こえた。どう切り出したらいいものか探っているようでもあった。
「病だったそうだ。もう手の施しようの無い」
ピクリとファイの指先が動いた。誰のことだとは言わない。けれどそんなもの、言葉で示されずとも分かりすぎるくらいに分かってしまう。
「先が長くないことも分かってたんだろうな。お前を含めて国民のほとんどは事前に逃げ出せる手筈になっていた。被害はさほどない」
既に土地の生命力自体が衰え、新天地を開拓するしかなかったのだ。それを知らず、王の死後政権を握ろうと試みた不穏分子がかってに自滅した、と黒鋼はファイに説明した。
セレスという国土の限界をファイも知っていた。そのため、自分が他国の軍を揺さ振る陽動を務めていたのだから。
けれど、王のことは何も知らされていたなかった。一番側に在ると信じていたのに、自分だけの思い込みだったのだろうかとそればかりが悲しい。
悲しいばかりで、他には何も無い。ぽっかりと大きな虚が胸の中に出来たようだ。
「知世が…ダイドウジの社長がお前あてに、伝言を預かっているそうだ」
思わず瞳を見開く。顔を向けた先で黒鋼が淡々と数字の羅列を口にする。意味の分からない者にはただの数字だが、ファイにはそれが誰かのアクセス用のナンバーだとすぐに分かった。
「知世の直通ナンバーだ…お前なら自分で分かるだろうが」
後は好きにしろ。そう呟くと黒鋼はさっさと背を向けた。
用件はそれだけだったらしい。
黒鋼にとってはファイはどうでもいい人間なのだろう。それは事実だ。
きっとこの後、ファイがアシュラの後を追っても、この場所から逃亡しても、軍に留まっても。
それを選んでもそれはファイの選択肢であって、黒鋼はそれを後から聞きそんな人間もいたか、とちらりと思い出す程度のことだ。
けれど、アシュラの最期を伝え、わざわざメッセンジャーまでしてくれたのは彼の優しさだろう。
じわり、とファイは目の奥が熱く痛むのを感じた。涸れたはずの涙が、溢れていた。

 

まるで何も無かったかのように、基地に日常は続いている。
セレスの崩壊が大々的に報道されたのはしばらく経ってからのことで、混乱を避けるために報道規制が布かれていたのを黒鋼は事前に知世から聞いていた。
談話室の大型スクリーンに映し出されたニュース画面を一瞥し、黒鋼は踵を返した。
大尉、としての表向きの階級以外にも厄介なことが多い。黒鋼はそれを任務とはわざと呼ばない。大尉以外の面倒ごとは身内がらみの案件が多いのだ。
母がダイドウジグループの縁続きだったおかげでそれなりの恩恵も被ったが、同時にそれだけの責務もある。
ことに年の近い従姉妹たちは幼い頃から互いに知った仲であるだけに遠慮が無い。食えない女将軍と女社長の顔を思い出す。面倒な、と思いはするが不快ではない。お互い様だ。
だから、有事の際に実戦能力の無い基地の司令官の代わりに臨時で将軍位などに就いているのだ。
二重軍籍という特例を伏せたのは、それが士気や財閥との繋がりで揉める原因ともなり兼ねないからだ。同じ理由で極力ダイドウジとの繋がりも伏せている。
黒鋼本人の功績を正当に評価し、今基地に求められている役割まで分析すれば、正式に将軍としての階級を与えられてもおかしくはないのだとこっそりと打診はあった。
ぬくぬくと後方で椅子を温めているだけの仕事など真っ平だと断った。
中央の上層部は苦い顔をしたが、女将軍だけがその不遜な態度を面白がってよしとした。
だから黒鋼は大尉のままでいる。
無能がのさばる道理も有能者を遊ばせている余裕もないので、いずれは昇進もあるだろうがそれはその時の話だ。

とっくに黒鋼の勤務時間は終っている。着崩した上着を脱いで肩に引っ掛けたまま黒鋼は基地を出て、大通りを抜けた。
特に用も無い。日は沈みかけているが夕飯には早い。けれど結局時間を持て余すくらいならば、早々にどこかの店で酒でも飲むかと宿舎とは違う方向へと歩を向けた。
人通りの少ない道を歩いていると、珍しく向こう側から誰かが歩いてきた。
軍服とは違う黒い服は、喪服だと遠目にも分かる。手に持った白い百合の花がまだ遠くからでも仄かに香った。
遠目にも間違うことのない淡い金色の髪。
声をかけるまでもなく向こうも黒鋼に気づいたようだった。片手を挙げて黒鋼に声をかけてきた。
「やあ」
「おう」
少しやつれたのか、頬のラインが以前よりも細く見えた。
特にかける言葉が見つからない黒鋼も適当に返事をする。
その後、知世とファイがどんな対面をしたのか、黒鋼は知らない。アシュラがファイに何を残したもかも知らないままだ。そこに踏み込む気もなかった。
そんな黒鋼の気持ちを知っているわけでもないだろうが、ファイがふわりと微笑んだ。
「お守りにね、髪をひと房持ってたんだ。それを埋めてきたよ」
あの人の代わりになるわけではないけれど。
微笑みは以前のような掴みどころのなさは無く、随分と儚げにも見えた。
「知世ちゃんと会ってきたよ。メッセージもちゃんと聞いてきた」
「そうか」
「うん…。ありがとう」
何をしたわけでもない、という黒鋼にファイはゆるく頭を振った。
饒舌な彼にしては珍しく、言葉が続かなかったのか、ファイは黒鋼の顔をじっと見据える。





まるで場違いのように、ファイは黒鋼の瞳に見入っていた。
これから沈みゆく夕焼けのようだと思った。

赤い瞳。
真っ直ぐに強い光を宿すそれを、ファイは眩しいもののように見つめた。
美しくて、力強い。
惹かれて、そして恐ろしささえ感じる。

逃げ出せばよかった、と思った。
黒鋼が全ての鍵だった。
任務のことも、彼のことも全部投げ捨てて、逃げ出して。
たった一人の大切な主の元へと帰ればよかった。
そうすれば、彼の命の終わりには間に合っただろうか。滅びの時を共に迎えられただろうか。
あの養い親が易々とそれを許すはずもないのだろうけれど。
そうしたかった。そうすれば良かった。

それでも時間は巻き戻せない。

赤く光るのは、危険信号だ。
この瞳に、捕らわれてしまわなければよかったのに。
けれど、ファイはきっと何処かでそれを知っていた。

ゆっくりと瞳を閉じて息を吐く。

「どうして、オレたちは出会ってしまったんだろうね」

瞳を閉じてもなお、赤い光がファイの瞼の裏で輝いていた。

 

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