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では下からどうぞー。
礼節も道理も弁えぬ者が――
王を弑した反逆者風情が――
すぐに、この国を傾けるに違いない。
愚王――。
そんな声をあちらこちらで聞く。
ファイはぱたり、と卓子に伏した。
「寝るな、邪魔だ」
すかさず飛んでくる自分の主の声に、顔だけ上げた。
ファイの二人目の王。武人であり、ファイにとって最初の王を――殺した人。
武人である彼の王としての資質を疑う声は多い。長きに渡る先王の狂気に曝されてきた官の中にさえ、昔を懐かしんで今の王を貶める声も。
そのたびに、ファイは言いようのないもどかしさで胸を塞がれる。
「黒様はさー…良い王様って思われたい、って思う…?」
思わずそう聞いてしまったのは、きっとあまりにも黒鋼を貶める声が満ちていたから。ファイ自身がそれに押しつぶされそうになっていた。慈悲の生き物であるはずの麒麟。なのに、黒鋼のことを悪く言う言葉を聞くたびに、先王の首が落とされたあの瞬間を思い出す。
ぎゅっと息を詰めて黒鋼の声を待った。
「阿呆」
たった一言で切って捨てると、黒鋼は書簡を手に取った。
「…はえ?」
「阿呆面さらすな。ただでさえ滅びかけてる国だ。麒麟まで呆けたかと笑いものだ」
「…」
「何を悩んでるか知らねえが…」
黒鋼はファイを見ない。
手元の書簡にさらり、と何かを書きつけている。それは国の方々から集まる民の声であり、官の政策であり。
この国が生きる方策だ。それに、黒鋼は目を通し、裁可、不裁可を出している。
「過去のどんな賢王であれ、終わりを迎えなかった奴はいない」
「…あ」
「賢王を懐かしんで縋るのも愚王が現れるのを心配するのも勝手だが、今を生きてない奴がどうにかしてくれるわけねえだろ。
詮無いことをごちゃごちゃいうよりも今与えられた条件と道具でどうにかしろ。
俺は賢王になれるとも良い王になれるとも端から考えちゃいねえ。ただ…俺がここにいてどうにか片付くことがあるなら、そのためにいるんだろうとは思っている。それに手を抜く気はねえよ」
「黒様…」
「お前もさっさと手を動かせ」
促されて、筆を手に取る。
新たに、田を切り開く政策の奏上。それに、迷わず裁可を下した。