[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
仮眠とって書き上げました。
さすがに休日だというのにあれだけでは心苦しく…。
100000HIT記念リクエスト企画です。
藤本様からのリクエスト「堀鐔でスーツを着た3人」です。
すいません、書いた後で「着てない」ことに気がつき…ぐふぅ(吐血)
黒様を着飾りたいのです。きっとファイも同じ思い。
ってか眠れねええっ…!!
初の、初のベスト8~。
ファミマで折り紙もらって応援メッセージ書いたんだよ~。不器用が頑張って鴉折ったんだよぅー…。
今日はこのまま夜更かしの予感。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
普段は機能性かつ職務優先のためジャージ姿の多い体育教師ではあるが、年に幾度かは出張や行事のため礼装の着用を余儀なくされる。
高給取りとはいえないが、職場の各種手当ては充実しているし一人暮らしに不自由のないだけの収入はある。
見苦しくない程度のスーツならば何枚かは備えてあるのだが、それを見た化学教師の反応は頗るよろしくなかった。
水色のカラーシャツと灰色の背広の上下を前に化学教師はしみじみと溢した。
「…新橋のサラリーマンのなりそこないみたいだね、黒たん」
「やかましい」
お前に着ろとは言ってない。
すかさずそう言い返した黒鋼とファイの間で「良くない」「ほっとけ」と押し問答が繰り返される。
売り言葉に買い言葉だったのだろう。
「黒様にスタイリッシュなんてものは求めてないよー」
「だったらいちいち文句つけん…」
「だから服はオレが選んであげるねー」
「ああ?」
勢いでなんだか上手く丸め込まれてしまったことに気がついた時にはもう遅い。
反論する暇もあらば。
「ユゥイ~、車出してー」
「はいはい」
強引に黒鋼を引きずるファイの後ろではちゃんとユゥイが部屋の施錠を済ませている。
ぐいぐいと手を引っ張られ、気がついた時には車に押しこまれていた。
ハンドルが逆だと感覚が違うな、と溢すユゥイを運転手にして着いた先は入ったことも無いような紳士服の店だった。
否、知っていても入ろうとも思わない類の店だった。
嗜好に合わない、というわけではない。ただ一介の私立学園の教員にとっては、易々とその扉をくぐることすら憚られるような店なのだ。
ブランドに疎い黒鋼にはその店が名の知られたデザイナーの名を冠する店だとは気がつかなかった。だが、どう考えても店の門構えからして自分が入るような場所ではないと思わざるを得ない。
「オーダーメイドで作ってくれるんだよー」
にこにこと無邪気に笑う化学教師に黒鋼は「何の恨みがあってこんな場所に連れてきた」と襟首を掴んで問い質したくなる。
我ながら場違いにもほどがある、と黒鋼は思った。
けれど、あいにくと空気をあえて読まない化学教師と日常の七割が双子の兄を優先する調理講師のタッグに脇を固められて、逃げ出すことすらままならない。
(ぜってえ遊んでやがる…!)
苦々しい思いで店内へと引きずられていくのだった。
「せっかくねー、背も高いのに勿体無いよー。どうせお店でも黒たんサイズの服なんか滅多にないんだから、どうせ高いお金払うならちゃんとしたの作っとこうよー」
「平均的な男の人の体形に合わせたものだと黒鋼先生の体にはちょっと合ってないからね。でも一着だけ仕立てやデザインが抜群にぴったりなのがあったよ」
「就職祝いにご両親が作ってくれたのでしょー。あれはすっごくよく似合ってると思うんだー。でも冠婚葬祭用であんまりお仕事には着ていけないもん」
当事者である黒鋼をよそに双子の会話はどんどん盛り上がっていく。
奇妙な三人連れに対し、店員は営業スマイルを浮かべると恭しく三人を奥へと誘った。実に見事なプロ意識だ。
もうどうにでもなれ、とげんなりする黒鋼を放って、今度は双子は店員を交えて異界の会話を繰り広げる。
既に羅列される横文字が型のタイプだとか色の名前だとかそんなことはどうでも良くなった。
早く終らせて帰りたい。
その一念のみで黒鋼はぐっと耐えた。
全身を隈なく採寸し、微妙に色の違う布を体に当てられる。
散々いじくられファイとユゥイとの相談でようやくスーツとシャツをどうするかが決まったらしい。
いつの間に相談したものか、ついでとばかりにファイとユゥイもそれぞれ自分のスーツを一着仕立てることにしたらしい。
ユゥイは淡い紫がかったグレーのスーツ、ファイはパールグレイのスーツにカラーシャツを合わせて購入するようだ。
黒鋼からすれば灰色、でひとくくりにしてしまうような服だが実際にシャツと合わせて身につけてみるとかなり印象が違うのだ。
そんな様子を実際目にすると、少しだけファイがスーツの仕立てに拘ったのも分かる気がする。
体に合わせて作られた物や色というのは既製品よりもはるかに肌に馴染み、落ち着くのだ。
店員と受取日の確認をする姿に、これで解放されるのか、と大きく息をついた黒鋼に無情にもファイとユゥイの声が投げかけられる。
「待って、黒様ー。あともう2、3着カラーを変えて作っちゃうからー」
「後、ネクタイと靴も」
「はあ!?」
まだあるのか、とかいい加減にしろ、とか。言いたいことは山ほどあったが、それよりもまず先に黒鋼にはファイに言わなければいけないことがある。
「滅多に着ねえような服にそんな金かけられるか!」
「大丈夫大丈夫ー。あ、カード払いでお願いします。一括で」
「なんでお前が払ってんだよ。ってか人の話をきけ!」
「もう黒様ったらー」
てきぱきと二着目、三着目のスーツを決めていくファイは店員に自分のカードを渡すとくるりと黒鋼に向き直った。
「自分の男を好きに着飾って何が悪いのー」
清々しく――そしておそらくは確信犯の笑顔でもって黒鋼に答えたファイの横で、ユゥイが少し困ったように控えめに苦笑していた。
後ろで聞かない振りをした店員のプロ意識に感謝しつつ。
黒鋼はたかがスーツでこんなにも執着される我が身をそっと呪った。