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では下からどうぞー。
息子が無邪気に黒鋼の膝の上に腰掛けている。
片手で包み込める小さな頭が時折ぐらつく。どこもかしこも柔らかな体は、少し力を込めれば潰れてしまいそうで怖い。
小さな小さなその全身の重みを、躊躇うことなく黒鋼に預けて無邪気に笑っている。
何が楽しいのか、黒鋼の手のひらをいじってみたり、自分よりも大きな指を一所懸命に握り締めて。
黒鋼よりも少しだけ高い体温が、衣越しにじんわりと伝わった。
小さな息子の頭がゆらゆらとぐらつくのを見ているうちに、不意に両親の最期の声が耳の奥に甦った。
『その強さでお前の愛する者を守れ』
『諏倭を、貴方を…守れなかった』
膝の上の小さな温もりが、とたんにずしりと重たく感じられた。
ぐらりと、今度こそ倒れそうに傾ぐ小さな体を手のひらだけで抱えなおす。
そんなことが容易なほど、小さく頼りない体なのに。小さなその爪先にまで、命は確かに充ちているのだ。
今ならば、あの時の父と母の気持ちが少しは分かる。
離れていった、手。
どれほどの愛しさを振り切っていったのだろう。
自分の手の届かない場所に、一番大事なものを置いていかなければいけない不安と恐ろしさ。
それでも、きっと。このささやかな温もりと重みを守るために、手放したのだ。
らしくもなく、泣き出す手前のように鼻の奥がかすかに痛んだ。
小さな手のひらが伸ばされた頬はけして濡れてはいなかったけれど。
自分のことを呼ぶその小さな存在を、黒鋼はもう一度抱えなおした。
「あー」
「どうした?」
「あー」
飽きずに黒鋼のことを呼ぶ息子は、黒鋼の声に嬉しそうに笑った。