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特殊永住設定。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
日本国における巫女としてのつとめは知世から教わったものがその大半である。
ファイの生まれた国と育った国とは異なることも多いその魔術の仕組みと成り立ちは、そのまま馴染んだ文化の違いでもあった。セレスで多岐に渡る魔術の知識を学び、次元を超えて旅を重ねたファイの柔軟さはそれを余すところなく理解すると諏倭の地にその魔力による加護を行き渡らせた。
「とりあえずは領地全土を囲む結界だよねー。後は土地の土台…というか土地そのものの力を回復させていくことかなぁ。魔物の瘴気の影響で本来の活力が戻っていない土地が多いから、回復が必要な土地を調べて優先順位を決めてー…」
人々の暮らす田畑と貴重な収入源である薬草の取れる野山をどの程度均等に回復させてやるべきか、と考えを巡らせるファイに侍女がすかさず茶を運ぶ。
時に薬として扱われ、嗜好品としても大変貴重でもある茶葉だが、それがわざわざ白鷺城から巫女への労いに贈られてきたのだ。偏見や要らぬ恐れも多いであろう、異国生まれの巫女の立場を危うくさせないために、それとなく白鷺城そのものが巫女を擁護する立場にあることを示す知世の心遣いの一つでもある。
少し温めのそれを口に含むと、茶葉の香りと甘みが広がり、ほっと肩から力が抜けていく。それなりに気を張っていたものだ、と改めて思い返し、ファイはほうっと息をついた。
相伴に預かる侍女たちも思い思いに寛いだ様子で、最近咲いた花の話や、どこそこで生まれた子牛の話、と噂話に暇がない。
淡い金の髪に蒼い瞳の巫女の姿に最初は恐る恐る接していた侍女たちだが、ファイ本人の性格や、白鷺城から届けられる嗜好品のご相伴も後押ししたのだろう。今では巫女様巫女様、と二言目にはそう口から出るほどファイのことを慕っている。
何よりも傍近くに仕えていれば、ファイが本当に諏倭のために尽力しているのが分かるのだ。
かつて諏倭の旧領に住んでいた者の中には、異国からやってきてそれほどにこの地を心にかけてくれるのか、と更に感激する者も少なくはなかった。
ファイと接することの少ない旧臣の中には未だに偏見や僻目があるのだが、少なくとも奥向きは全くの平和な日々である。
「でも巫女様のおかげで今年は随分と田んぼが整ったようですよ」
「そうそう。枯れていた木も新芽が出ていて、時間はかかるかもしれないけれど、魔物に荒らされていた森も元に戻るだろうって」
年若い侍女たちは生まれた時から諏倭の焼けた大地を目にしていた者がほとんどだ。
親や祖父母から伝え聞くかつての諏倭の姿を彼女たちなりに心の中に思い浮かべて、胸を騒がせている。
痩せた土地でどうにか日々を繋いでいた彼らに、ようやく返された土地とそれを統べる領主。未来を思い描く、ということをようやく思いついたような現実に諏倭中が浮き立っていた。
にこにことそれを聞いていたファイの耳に、唐突にその声は飛び込んでくる。
「ご領主様にも早く身を固めていただかなくてはなりませんね」
ゆったりと、茶を自然に含んで飲み下した自分の素知らぬ顔を、ファイは胸の内で褒め称えてやりたくなった。
「そうだねえー。黒様のお嫁さんを探してあげなきゃねー。…ほっとくと面倒がって逃げそうだしー。基本的に怖い顔してるから、事情を知らない女の人だと近寄って来なさそうだもんねぇ」
しみじみとした声音のファイに思い当たることが多すぎたのか、侍女たちからも思わず笑い声が零れる。
「いっそ知世姫に縁組をお願いしてみるのはどうかなあ」
名案だと俄然張り切る年嵩の侍女たちを微笑みながらファイは見つめる。
胸の中で荒れ狂う嵐の熱さはまるで炎のようで。自分がそんな風に思うことさえ――そこまで傷ついてしまうことさえ、初めて思い知った。