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携帯からだと字数オーバーでアップできなかったので…。
今日は春望はアップできないかもしれません。
ごめんなさい。
可能範囲内で頑張ります。
手が震えてきた…寒いよう。体温が上がってくれません。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ。
領主と息子が帰りついた途端、屋敷の奥から盛大な泣き声が響いてきた。
双子の娘がまた何やら悪戯でもしたのか、と思いながらも黒鋼は一応様子を見に行く。
容貌が母親の血を色濃く受け継いでいる娘たちに領主が滅法甘いのは周知の事実だ。
とてとてと軽い足音で歩みを揃える息子にも、厳しい一方で可愛くてならないのが周りには良く分かる。
最近馬術の稽古を始めたのを「俺の同じ歳の頃より筋が良い」と上機嫌にしているのを聞いた奥方がこっそりと笑っていた。
廊下を進むと泣き声が一際大きくなった。
「父上、早く!」
息子に袖を引っ張られ、苦笑しながら歩みを速くする。
娘に対しても息子に対しても、本当に子煩悩なのだ。
けれども一番弱いのは奥方相手だ。
だから。
「おっきくなったら父上のお嫁さんになる、って言ったら、母上が『絶対ダメ』って…!」
「そりゃ無理だな」
泣きじゃくりながら訴える娘にあっさりと黒鋼は認めた。
絶対に幸せにする、と決意して月読の君の手元から拐うようにして迎えた妻。
その血をひく子どもが可愛くない道理などあるはずがない。
泣かしてしまったけれど、こればかりは仕方ないのだ。
「俺はな、奥はあいつ一人って決めてあるんだ」
そう言うと娘二人はきょとりと瞳を大きく見開いて、またわんわんと泣き出した。
「父上のばかー」
「父上なんか嫌いー」
先ほどまで結婚できない、と泣いていたのに次は嫌い、ときた。
苦笑しながら抱き上げて背中をぽんぽん、と叩いてやると「大嫌い」と叫びながら二人ともぎゅうぎゅうとしがみ付いてくる。
いつの間にか息子がよしよしと妹たちの頭を撫でていた。
過去に同じように「母上と結婚する」と宣言して両親に泣かされた被害者なので身につまされるようだ。
泣かせた張本人である黒鋼の共犯者はというと、そんな夫と子どもの姿を微笑みながら見ていた。
「笑ってねえでお前もこいつらを泣き止ませるのを手伝えよ」
「はいはい」
笑いながらファイは娘を一人引き受けてあやす。手馴れたものだった。
今日も諏倭の領主は愛する者に振り回されている。
それは至極幸せなことだ。