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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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春望の続きです。

白黒にゃんこ、原稿あがりました。
ほのぼの中心だからあんまり生々しくは出来なかったのが心残りだけど!
あと1週間でどれだけのことが出来るだろう…。


では下からどうぞ。










かつて魔術師自身が人に語ったことがある。人間を一人、違う次元に移動させることは大変な魔力を要するのだと。
それが出来るだけの魔力を持つものは少なく、増してや複数人を何度も移動させられることの出来るだけの魔力となると数は限られてくる。
だからこそ分かるのだ。
彼がその身に引き受けた衝撃は、並大抵のものではなかったということに。

昏々と眠り続けるファイの体に、外傷は見当たらない。
かけた魔術は術者本人の意識が完全に途絶えたことにより効力を発揮しなくなったのだろう。解かれた髪は、今は元の淡く眩い金色を取り戻している。
けれど、その瞳が美しい蒼を覗かせることはない。
既に十日以上、意識は戻らない。
白い面はただ美しく、沈黙を守り続けている。
それが何よりも雄弁な拒絶のようで、黒鋼は唇を噛み締めた。
こんなことならば、あの時、手を放すのではなかった。
もう二度と会うことができないのだとしても、ファイが笑うから、手を放したのだ。

 

久々の大掛かりな討伐から城に帰って来た黒鋼を一番に向かえたのは、彼の主ではない。
家から届いたという文に目を通した瞬間、黒鋼は踵を返し今くぐったばかりの門を飛び出ていった。
病人の傍には近所の人間がついていたが、黒鋼の姿を見ると見苦しい姿を詫びながら彼女は床から身を起し姿勢を正した。
どう問えばいいのか黒鋼の頭は許容をとっくに超えていて、咄嗟に言葉が出てこない。
只ならぬ雰囲気に誰も口を出せないでいた。
「…本当なのか、この文は」
思い返せば間抜けな問いだ。そのためだけに帰って来たなどあっていい話しではない。
けれど、黒鋼にとっては最優先されることだった。
文は短く、黒鋼の探している人間が見つかった、としたためられていた。
まだ顔色の少し顔色の悪い女は、それでもしっかりと黒鋼の問いに頷きを返した。
「黒髪だと聞いている」
露草、という名の人間を調べた時、真っ先に黒鋼は聞いたのだ。蒼い瞳だと聞いて、期待したのは金の髪だった。けれど違った。
別人のはずだった。
「魔力の痕跡がございました。これでも術者の端くれでありましたから、術の種類は分からないまでも有無はわかります。ましてや、彼の方は私の間近にいらしたのです」
あれだけ強大な魔力をそうと読み違えるはずがありません、と女の声。
それを黒鋼は呆然と聞いた。
ならば何故、と思う。何故、あの魔術師は自分のもとへとやって来ないのか。
そう考えてはっと気がついた。
もし、ファイが既に今の黒鋼の生活をなんらかの手段でもって知っていたのだとしたら。誤解を招くことは十分に在り得る話だった。
黒鋼はすぐに家を出て露草を、ファイを追おうとした。既に日が落ちかけていたけれど、そんなことを気にする余裕もなかった。帰ったきたばかりで何事か、と目を見開く者はその視界にも入らない。
「旦那様」
女の声が背中を打ち、黒鋼はひたと足を止めた。
「…申し訳ございません」
「いや、お前のせいじゃない」
悪いのだとしたら、自分だ。黒鋼は苦く自嘲した。

山に入ろうとして気づく。もしも本当にファイならば、黒鋼の気配を察した途端に姿を隠してもおかしくは無い。忍軍であっても彼に気配を悟らせずに近寄ることが出来るのは少ないだろう。
違うかもしれない。別人かもしれない、と逸る心に言い聞かせながら、黒鋼は気配を消して慎重に山へと足を進めた。

月の光が落とされる山の中、彼は佇んでいた。
もう、見間違えようがない。
声をかけるのももどかしく黒鋼は歩を進めた。
振り返るファイの瞳が信じられないと言いたげに見開かれ、そして。
ファイは黒鋼へ背を向けて逃げ出した。
苛立ちと焦りにまかせて追いかけて。振り切られないように気配を探りながら、その存在をようやくこの手に掴んだと思ったのに。
発動されかけた魔力はファイ自身へと跳ね返り、そして彼は瞳を閉ざした。

胸にどれほど苦い物がこみ上げても、それが現状を揺るがすことはない。
こんなことを望んで、ファイの手を放したのではないのだ。

目覚めぬファイの唇がかすかに息をついでいるのだけが救いだった。


 

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