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開設前から書きたくてしょうがなかったお話の一つをこうして送り出すことが出来て凄く嬉しいです。
僕だけのかみさまはここからが一番山場になる部分なので、じっくり書きたいので後に回しました。
大筋をざーっと纏めたのですが、どうにも今日中にはアップ可能なところまで仕上がりそうにないので…ごめんなさい…。
明日から9日連勤です。
楽しみでやってる場所で愚痴を言うのは持っての外だとは思うのですが…。
相変わらずな派遣さんと、思わず「はげろ」と呪いたくなる上司をあしらいながら過ごさなければいけないのだと思うと…憂鬱です。
頑張れ、頑張れ、自分。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ~。
襖を開けると、小さく子守唄が聞こえた。
珍しいことに領内の視察から帰った黒鋼を出迎えるファイの姿が無かったのだが。
ファイの膝を枕にすやすやと寝息を立てる息子を見て、なるほどと小さく笑う。
団扇で風を送ってやりながら、ファイの唇が優しく子守唄を紡いでいた。
寝たばかりの子どもを起こさないように、黒鋼が足音を忍ばせてその横に座る。
団扇を扇ぐ手は止めずに、ファイがやはり小さな声でお帰りなさい、と言った。
黒鋼がそれにああ、と短く返すと、しばらく沈黙が降りる。
いつの間にか団扇を扇ぐかわりに、その手は息子の頭を優しく撫でていた。
大事な宝物のように慈しむその仕種は、たとえようが無いほどに優しい。
感慨深げに親子の姿を見つめる黒鋼は、けれど、ファイの瞳に落ちる翳りを見逃さなかった。
「何かあったか」
黒鋼の声に、ピクリとファイの肩が揺れた。
自分よりもはるかに頼りないファイの肩を、片腕で包み込む。
言葉に出来ずに抱え込む不安を、捨て置くつもりなどない。
分かち合うために傍に在るのだから。
パチパチとファイは惑うように瞳を瞬かせた。そこには未だに不安が色濃く映されている。
けれど、やがて諦めたように小さく息をついて、黒鋼に微笑んだ。
「もう…、何でわかっちゃうかなあ…」
そう呟いて、ファイはことりと自分の体重を黒鋼に預けた。
すぐに次の言葉は聞けないまま、再び沈黙が落ちる。
「この子のね」
意を決したように開かれた唇は、僅かに震えていた。
「…弟か妹が出来たんだって」
初めて耳にする事実に黒鋼の目が見開かれる。驚きのあまりに言葉も無い。
普通ならば、単純に喜ばしいことだった。
けれど、それではファイがこんな風に重荷を背負ったような表情をしているわけがわからない。
いったい何故、と黒鋼がファイを見る。
ファイは深く俯いていて、金色の髪がその表情を隠してしまっていた。
息子を優しく撫でていた手は、体の横できゅっと握り締められている。
何か、があったのだと知れた。
「双子、みたいなんだ」
ようやく聞き取れた声は、緊張で掠れていた。
――不幸を呼ぶ。
――災厄を招く。
――呪われた子ども。
生まれてきてはいけなかった、子ども。
今はもう遠い、雪に閉ざされた国の呪いの言葉が、今もファイを苦しめている。
もし生まれてくる子どもが、双子であるということで迫害されることになるかもしれないのだとしたら。
幸せを与えてくれたこの国に、ファイが不幸を招くのだとしたら。
子どもに、この地の民に、――黒鋼に。
そう考えただけで、恐ろしさと、申し訳なさにファイの身は竦んだ。
硬く身を強張らせたファイの手を、黒鋼が上から握りこんだ。
ぎゅっとこめられる力にファイが恐々と顔を上げる。
「倍、めでてえな」
思いもよらない言葉だった。
黒鋼の瞳に間近から射抜かれて、ファイは動けない。
赤い瞳が、これ以上ない喜びと慈愛に染められてファイを見つめていた。
どんな言葉を与えられても。もし仮にそれが断罪の言葉であっても、それを甘受しようと覚悟を決めていたのだ。
けれど、黒鋼がファイに与えるものはどれも優しいばかりで、ファイは戸惑う。
そんなファイの様子をみて、黒鋼は苦笑した。
「ここは…。今お前が生きているのは、お前を捨てた世界じゃない」
だから大丈夫だ、と。一人で何もかもを気負うな、と黒鋼の声が告げていた。
「いっぺんに二人も増えるんだ。騒がしくなるぞ」
「あ…」
唇の端を上げて笑う黒鋼に、ファイが泣きそうに笑った。
母親の苦悩など知らぬげに、すやすや穏やかな寝息を立てる息子の存在が、これが夢ではなくて現実だと教えてくれた。
新しい日々は、たしかにすぐそこまで訪れている。