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実に一年以上頭の中に考えていたネタでした!遅!
最近の悩みはネタ切れではなく、「あー、過去にもうこのネタ書いてたかも?いや、考えてただけで文字にしてないかも?」です。
山のようにあるんです、ネタだけは。ただ、私のスペックの低さがなんともかんとも…。
…あう…、精進します。
相棒から受け取ったHarmoniaをヘビロテで聞いています。
うっかりお気に入りになった一曲のおかげで、それだけで書きたい話が三個も四個も出てきて、脳が飽和状態です。どうするの、自分(笑)
とりあえず本を完成させてご許可いただいてるものをさっさと書き上げたい。
…出来てるとこまでを分割で送ったら迷惑にもほどがある…。うん。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
いろはにほへとちりぬるを
わかよたれそとつねならむ
うゐのおくやまけふこえて
あさきゆめみしゑひもせす
手習いで梳き紙に墨をのせながら、ファイは文字の一つ一つを追って謳う。
七五調の音が舌に乗り声になるのはなんとも小気味が良い。
異国の文字を一から覚えるのは大変だったが、水の流れを髣髴とさせる平仮名の形は素直に美しいと思った。
知世から「よろしければ」と手本に貰った草子はおそらく字の上手の手蹟と思われる数多の紙が綴じられていた。
力強い文字、どこか硬質な印象の文字、柔らかだがなよなよと落ち着かぬ文字。ただ紙の上に綴られた文字であるのに、そこには書いた人間の人柄を思わせる個性が滲み出ている。
はたして自分の書いた文字はどう思われているものやら、と墨の乾くのを待ちながら自分の練習の成果を何度も目でなぞる。
何の気は無しに、はらりと捲くった頁に手が止まる。
おそらく、自分が一番見慣れた手蹟。
驚いたことに外見やその言動とは裏腹に、彼は随分丁寧な文字を書く。
無意識に指でその文字を撫でながら、最近覚えた戯れ歌を口ずさむ。
「こいという字をほどいてみれば…いとし、いとしと言う心」
恋を古くは戀と書く、と教えてもらったのは最近のことだった。あまりに入り組んだ文字に思わず言葉を無くしたファイに知世が面白そうに教えてくれた歌だった。
難しいと思った文字をそんな風にして一つずつ拾っていくと存外に面白いもので、新しい発見もある。俄然その面白さに習熟の度合いの上がったファイを見て、黒鋼が単純な、と呆れたように言ったものだった。
愛しいと、愛しいと、言う心。
それを恋と呼ぶ美しさを何度も舌で転がすファイに知世はこっそりと教えてくれた。
もともと、心ではなく「手」の字をあてていたのだと。
「攣は『ひく』という意味ですわ。強く心ひかれ、己の腕で引き寄せたいと思う気持ちを恋、と」
悲しさや苦しみを伴いながら、それでもこの手に未だつかみ取れぬ存在にひかれ、己が手で掴み取ろうとする気持ち。
それを恋と呼ぶのだと教えてくれた姫の唇は淡く微笑んでいた。
ファイは自分の掌をじっと見つめる。
手、と教えられて最初に思い出したのは彼のこと。
閉ざされていく世界で、失われた片腕と、自分を力強く引き寄せた片腕。
「…いとしいとしと言う…手」
それを思い出すだけで滑稽なほど、胸のうちが甘くざわめく。
あの手が、自分を繋いでいる。
じわじわと歓喜が湧いてくる。溢れるような幸福に密やかに笑うファイの顔を見るものは誰もいなかったけれど。
心ひかれて、その存在をどうかこの手にと願う。
いとしいとしと。