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そんな衝動に駆られる日本国永住設定小話です。
女としてどうよ、という期間行ってなかった美容室に行ってきました。
担当の美容師さんと「長かったねー」「長かったですねー」と前回来店からの日数を確かめあいましたとも(笑)
プロのシャンプーは気持ちよいです。
前日までの仕事疲れも相まって、シャンプーの間寝てました。髪を乾かしてもらってる間も首ががっくんがっくん揺れる始末…。
夏の終わりくらいにはもう一度行っとこう。
明日から仕事です、憂鬱です。
ついでに今日顔を出した職場で、来月からのありえねー勤務日程を知らされたので更にドン。
あーりーえーねー。
頑張れ自分。
拍手ありがとうございました。
では、小話は下からどうぞ。
春の気配が風に混じるようになったうららかな昼下がり、薬院で常備薬の点検をしていた蘇摩の耳に板張りの廊下を走ってくる音が飛込んだ。
小走りらしい軽い足音と衣擦れの音を鋭敏な忍の聴覚は正確に聞き取る。
体重を感じさせない足の運びから相手を察し、作業の手を止めた。
「蘇摩さん、いませんか?」
予想に違わぬ金色の髪の魔術師は常の礼儀正しさもどこへやら、居室を問うのと同時に引き戸に手をかけていた。
珍しいものを見るものだとその様子をまじまじと眺めていた蘇摩の姿にファイは裾を乱して走り寄る。
「あの…っ、黒鋼がお城に来た人に手をあげたって聞いたんですけど…!」
血相を変える魔術師などというものはなかなかお目にかかれるものではない。
少しばかり息が乱れて、言葉が不自然に途切れそうになっているのも、髪が頬に張り付いたままなのも珍しい。
それでも真っ先に気にするのは自分のことではなく、彼をこの世界に留め置いた人間のことなのだ。
「もうお耳に入りましたか」
「本当なんですか!?」
「こたびばかりは姫様も捨て置けないご様子で近くお叱りがあるようですよ」
「…知世姫がそんな風に怒るってことは大変なことですよね」
どうしちゃったの、黒様ー。傍目にも分かるほどにファイの顔から色が引いていくのを見、蘇摩は慌ててファイが勘違いしたであろうことを否定する。
「ファイさん、姫様が怒ってらっしゃるのは殴られた者の方ですよ」
「は?」
出入りの商人の使いの者だったのですけれど、と蘇摩は子細を思い出していた。
戦闘を主とする忍軍にあっても、最強を誇る黒鋼の血の気の多いのは有名だ。その過ぎた荒々しさゆえ過去に一度、知世が異界へと放逐した彼がファイを伴って戻ってきた時にはその様変わりに驚いたものだったけれど。
以前のような暴虐な振る舞いは見受けられないとはいえ、依然として黒鋼が日本国随一の戦士であり忍ある事実には変わりない。
その彼が殺気こそなかったとは言え、武器もない丸腰の人間相手に本気の怒気を隠そうともせず喉元を締め上げていた姿に、蘇摩はじめ忍たちの背筋にも寒気がはしった。
制止する声にすぐに引いたものの、黒鋼があれだけ感情を露わにして怒るのは滅多なことではない。
不承不承ながらも黒鋼の口を割らせたが、己の立場として分が悪いのと知りながら、それでも最後まで自ら全貌を語ろうとはしなかった。たまたま近くで見ていた人間の断片的な話をつなぎ合わせ、被害を主張する人間の話を聞き、ようやく何があったかの流れはわかった。黒鋼が固く口を噤んだ理由も。
だからこそ。
「本人が言わないものを私の口から言うことは出来ません」
不安そうに見つめるファイに蘇摩はきっぱりと告げる。代わりに安心するように、と微笑んで。
「黒鋼相手に命知らずなことをするものですね」
「少々やりすぎだとは思いますけれど黒鋼が怒るのも仕方ありませんわ」
日本国の帝の居城・白鷺城。その城内の更に奥まった場所が、主たる帝とその近親の内向きの住まいとする空間でもある。
公の立場では主従の一線を越えない帝と姫巫女も一旦その立場を離れればそれなりに仲の良い姉妹である。その丁丁発止に周囲がひやひやするような際どい内容があるのは、二人揃って一癖も二癖もあるからに他ならないが。
姉妹のごく私的な語らいのため天照は寛いだ服装で脇息に持たれかかる。
朱唇を袖で覆う様は典雅で美しいが、軽く眉宇をひそめているのは彼女が珍しく心底不快だと思っているからだ。
妹姫も笑みこそ絶やさないものの、姉同様に快く思えるはずもない。
姉妹二人が華やかな見目とは裏腹な会話を繰り広げるその傍らには、話題の当事者でもある黒鋼が控えていた。
「…で。俺に咎め立てがあって呼びつけたんじゃねえのかよ」
不機嫌そうに腕を組んで柱に寄りかかるその姿はとても主の御前とは思えないが、帝も姫巫女も慣れたものでいちいちそれを正すようなことはしない。
「咎められることをした、という自覚があるのですか?」
くすりと天照が笑う。性急さが少しばかりの照れの裏返しだと分かるからだ。
「咎めるならば喧嘩両成敗で相手も同様。さて、この場合は…」
言葉を切って妹姫にちらりと視線を投げる。
知世も心得たように姉の聞きたいことに答えた。
黒鋼の眉間の皺が深くなる。天照と知世、すでに二人とも全容を知っているのだ。これはその上での確認作業に過ぎない。
その上で、黒鋼に促すのだ。どうするか、と。
「たしかに入城を許可している商人でしたわ。
たしか舶来物を商っていて、本人も大変な好事家ですわ。いつだったか、珍しい外つ国の鳥を献上してきたこともありましたもの」
「好事家ですか。それで情人を金子で譲り渡して欲しい、とは…随分無粋なことですね」
月光と深い海の色。
この日本国で唯一と言っても過言ではないほどに希少な存在が黒鋼の手の中にある。
どこでファイを見たのか。城に出入りを許された豪商はファイの身元を預かるのが黒鋼だと知り、使者を通じてそっと取引を持ちかけた。
下世話な噂話も入り混じったその取引話に、さして頑丈でもない黒鋼の堪忍袋の緒などとうの昔に切れていたのだけれど、激昂はそれだけではない。
見目にも麗しい、珍しい人間を何とか自分の手元に引き取りたい、と。
「あれの価値だとか珍しさなんざどうでもいいんだよ。飾っておきたいだけなら他をあたれ」
ファイの自我などないかのように、まるで物としての価値を論ずるように金を、数字を、自慢気に上げていった男が腹立たしい。
泣くし、笑うし、怒る。不本意ながら時にはこちらの手に負えないような策をこらして、手玉に取ったり、操り糸を手繰ってみせもする。
放っておけば寂しがる。他愛ないことで幸せそうな顔を見せる。
触れれば、温かい。
そんなことすら思い至らないような相手に、譲るようなものなど何一つとしてない。
「黒鋼」
知世が声をかける。注がれる視線は柔らかだ。
「あなたのお仕置きが決まりましてよ」
「何だ」
「帝のおわします城内で、非常事態でもないにも関わらず暴力沙汰に及んだことは大変許し難い行為です。
けれど、あなたの怒りの理由ももっともですからそのへんは少し手加減いたしましょう」
にこやかに薄紅色の唇から処罰が下される。
「ファイさんにはこの揉め事の経緯をご自分で説明なさいね」
忍者が心底嫌そうな顔をした。