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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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春望の続きです。


よくよく考えたら私の書く長編は基本的に薄暗いのでした…。
いつも通りじゃん!!
さて、そろそろ旦那にも動いてもらわないといけない段階になってきました。
ところで作中でも「旦那様」呼びがありますがこれインド語だったような、いいのかな…、で恐る恐る使っています。
金平糖は諦めて使います。(金平が金太郎の息子の名前で、それからつけられた説なら日本語扱いでもいけるはず)
日本語難しい。つかチャンポンすぎる。


拍手ありがとうございます。


では下からどうぞ~。








それからもファイは姿を隠して黒鋼の姿を度々見にいった。
傷つくためにしているようなものだと、自嘲しても心が勝手に体を突き動かしていた。

さほど大きくは無い一軒家に黒鋼は住んでいる。
周りは同じように城仕えの忍や兵らしき人間の家が立ち並び町家や農家とは異なる一種物々しい雰囲気が漂っていたが、日中は子どもたちの笑い声がさざめくのはどこも変わらない。道を駆けて行く子どもらを、それぞれの家の妻や使用人らが温かく見守っている。
黒鋼の家には小さな男の子と、もう一人妻らしき女性がいた。
年の頃は黒鋼とそう変わらないだろう。身嗜みは慎ましやかで、控えめなその女性を子どもは「おかあさん」と呼び、女性は黒鋼のことを「旦那様」と呼んだ。
幸せに暮らしているのだと分かって、胸が痛んで仕方がなかった。

心が血を噴出しそうなくらい痛むのに、瞳を逸らせなかった。


都の中心から外れた山の中に身を隠すようにして住まい、自分の存在を気取られぬよう自分から里におりることは滅多にしないようした。
雪の降る前に屋根のある寝床を手に入れられたのは僥倖だった。
黒鋼の姿をもうしばらくは見ていたい、と思ってもファイはこの世界の人間でないのだから住む場所ひとつを取っても暮らしに困る。
顔見知りだといってもこんな状態で白鷺城に乗り込むわけにもいかないだろう。知世を頼ることは出来ない。彼女は黒鋼の主だ。
苦労しながらどうにか家の体裁を整えるうちに山裾に住む子ども達が遊びに来るようになり、その伝手で時々薬師や医師の真似事のようなことをした。
治癒魔法の使えないかわりに、旅の間に薬草の種類や薬の作り方を覚えたのが役に立ったのだ。
請われるままに煎じ薬や膏油を与え、そのお礼に、と米や麦を分けてもらう。細々と一人で暮らしていく分にはそれで十分だた。
昼間は遊びに来た子どもの相手をしたり、薬草を探しに山の奥まで踏み入ることもあった。夕刻には子どもたちを家に帰して、風に揺れる葉擦れの音を聞きながら一人眠りにつく。
閉ざした瞼の裏に黒鋼の姿を何度も何度も思い浮かべ、反芻する。
時折、狂おしさに耐え切れず、一人でひっそりと泣いた。


幾度か名前を聞かれたけれど、ファイ、という名前は口に出来なかった。
ユゥイ、という自分の真名も。

いつの間にか誰かが『露草』と呼び、それが定着したようだった。
後から教えてもらったが、露草というのは染料に使う草らしい。美しい青い色が出るのだという。
けれど、その色はすぐに褪めてしまう。
だから「露草」というのは人の心の儚さを、移り気や心変わりを婉曲に表現する時にも使われる。

責めることは出来ないけれど、今の自分にはなんと似つかわしい名だろう、とファイは一人嗤った。

 

しん、と静謐が支配する。
白鷺城の奥まった一室。
何人たりと容易く踏み入ることは許されないそこは姫巫女の祷場だ。
当代月読の圧倒的な魔力によって日本国の全土に張られた結界の、その要たりうる場所。
月の加護を日本国に招く姫巫女の瞳が静かに開かれた。
つぶらな瞳にはいささかの翳りが色を落としている。
一つだけ小さく息をつくと、幾重にも重ねられた衣の裾を重たげも無く引き、祷場を後にした。
「どうかなさいましたか」
「いえ…」
祷場の外で膝をつき控えていた女忍が月読の表情を敏感に読み取り労わるような声をかける。
それに小さく笑って答え月読はしとやかに歩みを進めた。女忍も黙って付き従う。余計な口はきかない。
さらさらと衣擦れだけを響かせて私室に戻ると少しだけ張り詰めていた空気が緩み、見た目に相応しい少女の表情に変わる。
「お疲れでございます」
侍女たちが頭を下げて出迎えるのに鷹揚に頷き、脇息に身を預けて腰を落ち着ける。
そんな主の様子に女忍の表情も忍の任務に張り詰めたものでなく、柔らかな苦笑へと変わった。
月読の出迎えを終えた侍女たちを人払いし、他に誰も話を聞く者がいなくなったのを確認してから蘇摩は口を開いた。
「結界の異変はございませんでしたか」
「今のところは何も」
人を異界に送るだけの魔力を有する月読の結界だ。易々と破られるものではないし、異変など起こるはずもない。
本来ならば、だ。
「…あの時一度だけですわ、結界に揺らぎが生じたのは」
数ヶ月前、突如として月読の結界が揺らいだ。何者かの魔力が結界に触れたせいだ。
魔物の襲撃か、と一時騒然としたが、それ以上の異変はなく今に至る。
「敵襲では?」
日本国の姫巫女。その人の結界を越えることがどれだけ困難であり脅威をもたらすことなのか、魔力を持つ身ではない蘇摩にも薄っすらと察せられる。
今まで異変がないからといって油断は出来ない。
新たな能力を持つ魔物が生まれたのかもしれないし、あるいは天照、月読の命を狙う手勢の仕業かもしれない。
彼女らの身辺を守る忍にとっては見過ごしておけない事態だ。
「結界を崩すような暴力的な意思は感じ取れませんでした。けれど警戒は怠らぬ方が良いのでしょうね」
「御意」
「本当はあの方かも、と思ったのですが…」
懐かしそうに瞳を眇める知世の声に蘇摩の表情も和らぐ。
「黒鋼からはそんな話はちっとも聞きませんし」
「そうですね」
正体の知れぬ侵入者が『彼』だったらどれだけ喜ばしいことか。
けれど一番それを喜ぶのは自分たちではないことを二人とも知っている。

「あの方は、今どこにいらっしゃるのでしょうね」

 

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