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春望の続きです。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ~。
何度も体を重ねた。
それまでファイは同性どころか異性とも肌を触れ合わせたことが無かった。
必要性を覚えたこともなかったし、誰かに心を預けることを自分に許しはしなかったからだ。
そんな決意もむなしく、敬愛した王と優しかった人々を失ってしまったけれど。
裏切りと、嘘と、悲嘆と、呪詛と。
そんなものばかりを抱え込んだファイをおそらくは最初から勘付いていただろうに、彼は手を伸ばしてきた。
粟立つような肌の熱さとけして交じり合えない孤独とを抱擁に溶かしこんで、彼は触れてきた。
何度も何度も情を交わして、愛しい、と思ったのだ。
その日もやはり、泣きながら目覚めた。
涙で凝った髪はじっとりと実際以上に重く感じられ憂鬱この上ない。
縋るように伸ばしていた手がむなしく空中で彷徨うのに歎息し、ファイは両手で顔を覆った。
目の端から零れ落ちる熱い雫を感じた。ただ流れるがままにして、目を擦るようなことはしない。
泣き方だけ随分上手くなってしまった。
「傷薬?」
鸚鵡返しのファイの声に子どもがこくりと頷いた。
「あのね、出来たら少し多めにわけてください。これで足りますか?」
そう言って遊びにくる子どもの中では年長の部類に入る少年は手に持っていた包みを差し出す。
おそらく親が持たせたのだろうその包みには麦の他に反物が入っていた。
田を休ませる冬の間に織られたと思しきそれは格別上等な品ではないが、一家の家計の足しとして大事なもののはずだ。
それをファイのところに持ってこさせた、というのは何か差し迫った事情でもあるのだろう。
「露草様、これじゃ足りない?」
思案するファイを不安そうに子どもが見上げた。
「ううん。こんなに貰っちゃって悪いかなあ、って思っただけ。でもどうしたの?」
子どもを安心させるように微笑みながら聞く。農作業の途中で怪我をしたり、遊んでいた子ども同士の喧嘩で擦り傷をこしらえたりなどするのはしょっちゅうのことだったが、あまり誰かが大きな怪我をしたというのは聞かない。
「あのね、兄ちゃんが仕事で怪我して家に帰ってきたんだ」
怪我をした兄の姿を思い出してか、しゅんと項垂れる子どもの頭をファイは膝をついて撫でる。
「そっか。それじゃあ心配だね。お兄さんの怪我は酷いの?」
「…わかんないけど、腹に大きな傷があって、痛そうだった…」
泣き出しそうになるのを耐えるように、子どもがぎゅっと唇を噛む。
「お城で、手当てしてもらったけど…。当分は戦えないから、って戻ってきたんだ。でも、うちにある薬だけじゃ足りなくて…」
「お城?」
思わず驚きに小さくファイの瞳が開かれる。それには気づかなかったのだろう、子どもは「うん」と頷く。
「兄ちゃんはここらへんじゃ一番強かったから、推薦されてお城に行ったんだよ。最初はただの兵だったけど刀の筋がいい、って褒められて忍軍に入ったんだ」
「…そう。それじゃあ傷が早く治らないと大変だね」
ずきり、と体の芯が軋むように痛むのを押し殺して、ファイは笑ってみせた。
今は彼に繋がる言葉一つ聞くのが辛い。
そんなはずはないというのに、もしかしたらまだどこかで繋がっていられるのだろうかと甘い期待を覚えそうになる。
自分を叱咤してそれを必死に押し留めると、膏薬と解熱の粉薬を風呂敷に包んで子どもに手渡した。
小屋に作り置いていただけの薬では心もとなかったので、後で膏薬を作り足して持っていくから、と約束をして子どもを帰らせる。
無事に薬を受け取れた安堵と、早く帰らなければ、と逸る子どもの背中に「転ばないようにね」と声をかけて見送った。
帰る場所のある人を見送るのは、ただ独りぼっちでいるよりも無性に寂しくなる。
情けないな、と小さく呟いて逃げるように小屋の中へと駆け込んだ。