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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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春望の続きです。
ようやく当初の予定通りのところまで…!
でもここからが長いんですよね。知ってます。自分で考えたんだから…。
さて、本格的に夏が来る前に終らせなければ。


久々の休みです。午前中に通販発送作業などしました。

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞ~。







僅かに障子の開け放たれた窓からは心地の良い風が入り込み、頬を撫でていく。ゆっくりと首を巡らせ、辺りの様子を窺う。
綺麗に整えられた室内。広めの板敷きの床よりも一段高い畳に寝具を敷き、ファイはそこに寝かされていた。気を失う直前までいた部屋ではないらしい。
黒鋼の姿が無いことに一抹の寂しさを覚えながらも安堵した。
知世姫の計らいかもしれないが、動けるようになったら彼女に世話になった礼を告げて、この国を去ろうと考える。
最初からそうしていればよかった。
もう幾度も幾度も考えたことなのに、実行に移せなかった。
おかげでこんな無様な振る舞いに黒鋼や周囲を巻き込んでしまったのだ。
はあっと溜息が零れる。
体を起こそうとしても気だるさが抜け切らない。
仕方なく体調を回復させるのが先だと静かに体から力を抜いた。
吹き込む風からは水の香りがして、晴れてはいるがまだ随分と雨の多い季節なのだと肌で理解する。
小さく呼吸を繰り返し、肺を水の匂いで満たす。天から与えられる慈しみは、その激しさに人を傷つけることもあるが、今はただ優しいだけだった。

どれくらいそうしていただろうか。障子の向こうで小さな人影がことことと何か動いているのが見えた。
やがてからりと障子が開けられ、小さな子どもの顔がそこから覗く。
ファイが目を覚ましていたことに驚いたのだろう。小さく「あ」と声をあげると、慌てた様子で盆を抱えて部屋へと飛び込んできた。
盆の上には水差しや蓋付きの小さな箱が載っていた。それをファイの傍らに恭しく置くと、子どもはちょこんと正座をしてファイの傍に控える。
「だいじょうぶ?痛くない?気持ち悪くない?お熱は?お薬は?」
矢継ぎ早に聞いてくる子どもの舌足らずな声にファイは微笑ましさを覚える。
自分に与えられた仕事に一所懸命な姿は見ていて可愛らしい。
「大丈夫。寝てれば治るから」
そう聞いても心配なのだろう。きゅうっと眉を寄せた顔はひどく真剣で思わず苦笑が零れた。
可愛いものだ、と思う。それが、自分の好いた男の子どもであっても。
ファイを心配そうに見る幼い子は、黒鋼を「お父さん」と呼び笑っていた子だ。もし、彼の子どもを目の当たりにしたら、もう嫉妬や悲しみしか自分の中には湧かないのかと思っていた。
そうは思わなかったことに安堵する。
黒鋼に似たところはないけれど、心配そうな顔をしているのはなんだか可哀想だった。
子どもは嫌いではないから普段なら色々と相手をしてあげたいのだけれど、今はとてもそれだけの余力がない。
どうしたものかと思って、結局曖昧に笑っただけになった。
そのまま言葉も何も無く、しばし無言の時間が過ぎる。
居心地が悪くなったのかもじもじと子どもが身動ぐのに気が付いて「もういいよ」と言ったのだが、どうやらこの役目をちゃんとこなせないと罰としてご飯抜きなのだと聞かされた。
ファイが逃げ出さないように、という監視の意味も含まれているのだろう。力任せに閉じ込められるよりもこんな風に情に訴えられる方が確かに効果は覿面だ。それが幼くて稚いものなら尚更に。
誰の策だ、とファイはひっそりと心のうちで軽い悪態をついた。
随分と眠っていたせいか、体は確かに何ともいえない倦怠感に苛まれているのに意識はやたらとはっきりしている。眠気は一向に落ちてこない。
ぼんやりと瞳を閉ざしたり、開けたりと繰り返す。
ファイがちっとも眠くないのが分かったのだろう。いつの間にか子どもが最初よりも少し距離をつめて、じっと横顔を見つめていた。
金色の髪の異人が珍しいのか、と思う。
長い旅の間、黒髪や黒目の民族はどこの世界にいても存在したし、人種に違いはあれど数も多かった。その中に降り立つとファイの異相は人の目を引きやすい。じっと見られることにも慣れている。
だが、子どもの真っ直ぐな視線はいつまでたっても逸らされない。
刺すように、というほど激しいものではないがただひた向きにファイから視線を外そうとしない。
何か用だろうかと思い、首をめぐらせたところで存外に真摯な視線とぶつかる。
思いつめたような眼差しに、不穏なものを感じた。
あのね、と小さな唇が躊躇いがちに震えていた。

「オレと母さんがいるから、おうちに帰れないの?」

違うよ、と言ってあげたかった。なのにファイの喉は塞がれでもしたかのように声が出ない。
瞳を見開いたファイの様子を是、と受け取ったのだろう。子どもの顔が泣きそうにくしゃりと歪んで、「ごめんなさい」と弱弱しい声が聞こえた。
どうにか、そうではない、と首を横に振るがそれもどれほど効果があったのやら。
誰が話したのかは知れないにせよ、この子どもは僅かなりとも事情を聞かされているらしい。

君のせいではないよ、と言ってあげたいのに。
手を伸ばすことさえも忘れたように体中が強張っていた。


 

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