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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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春望の続きです。

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞ。







暗闇の中、まるでそれ自体が光を纏っているかのように白い腕が伸ばされ、さらりとその腕から落ちた袖が衣擦れの音をさせた。
日本国のものではない、けれど『力ある言葉』をはっきりとした意図をもって紡ぐその指に躊躇いはない。
黒鋼によって引き止められた、あの満月の夜と違い、今魔術師の術を遮る物はなかった。
ファイの指が、術の最後の呪を虚空に描ききった。

けれど、途端に術に籠められた魔力が暴走することなく霧散する。
あまりにも呆気ない手応えにきょとん、と思わずファイは瞳を瞬かせた。
全くの予想外の出来事だった。
「な、に…」
自分の手を見つめながら思わず唇から声が漏れる。長く開かれることの無かった唇は乾いていて、そこから零れた声は掠れていた。
何者かの手によって、ファイの魔術が妨害されたのだ。
この国でそんなことが可能なのはただ一人。
そして彼女は、黒鋼の主だ。
急くような足音が近づくのが分かって咄嗟に身を起したファイだが、全身はやはり気だるく、いつものように軽やかな動きではない。
のろのろと持ち上げた頭の奥のほうがずきりと痛んだ。
廊下の向こうからこちらへと向かう気配がする。無駄な動きのないように、音を殺した独特の足の運びは訓練されたもののそれだ。
足音など聞くまでもなくこんな時に駆けつけてくるであろう男の顔が脳裏に浮かんで、思わず舌打ちしたくなる。
自分の体ひとつ支えることもままならず、ファイはずるりと這うようにしながらせめてどこかに身を隠そうとする。
会いたくはなかった。
会いたい。
心が焦がれて、焼きついて、果ててしまうほどに会いたい。
だから会いたくなかった。
背を向けた部屋の出入り口、襖が荒々しく開かれる。
振り向くことはしなかった。

「起きたのか」
男の声に、ぞくりと胸の奥が震える。それは確かに喜びだった。
あの赤い瞳が自分の姿を見止め、そして案じている。
出会えた。もう一度出会えた。
別れを確たる未来と予想してもなお、出会えたことが喜びだったのだ。
ファイはそっと息を吐いた。声を聞くだけでこんなにも嬉しい。口を開けば、泣き出してしまいそうだった。
泣きそうなのに、唇には笑みが浮かんでそんなことさえもむしょうに可笑しかった。
のろのろと声の方を振り返る。暗闇に慣れた瞳には、廊下にともる灯明さえも眩しい。瞳を眇めたファイの顔を見て、黒鋼が一瞬何かを飲み込むような気配だけが伝わった。
「…また逃げる気だったな、てめえは」
責めるよりも、苦い気配の濃い声にファイは瞳を閉じた。
「知世に言って、術をかけさせておいて正解だった」
やはり、という思いでファイの唇が綻ぶ。
「主になんてことをさせてるの、君は」
呆れたが、それでも彼らしい、と思った。
落ち着いて見回してみれば知世が術をかけたのはファイが寝ていた寝台だった。
天井から吊るされた白い天蓋。その糸に沿うように術が編みこまれている。成る程、とファイはただ感心した。
途方もなく繊細で緻密な術だ。そしてそれを実行するにはやはり膨大な魔力が必要となる。次元を移動するだけの魔力を無効とさせるだけの魔力がいるのだから。
術による攻撃が刃物や鈍器に近い形状をとるように、結界の形状が網や球に近いように。術は実際の存在と異なるようでいて、その実性質の似通ったものと同じ形状をとることが多い。
知世のかけた術も憑代を糸にすることで結界にもにた構造を編みあげ、糸と同化した術は発動までその存在が隠され、術の対象であるファイを囲むことはより容易くなる。
実に巧妙に隠して複雑に張り巡らされた魔力に、目覚めたばかりのファイが気がつかないのも道理だ。
そう思うと気が抜けたのだろう。
魔力の負荷ではない眩暈に襲われた。ぐらりと揺らぐ視界に慌てたような黒鋼の姿が映る。
気持ち悪さに瞼を開けていられる気力もなくなって、ファイは瞳を閉じた。
床に倒れる衝撃を覚悟したけれど、黒鋼の腕に体を支えられてそれは免れる。
ぐらぐらと脳が揺さ振られているように何もかもが遠い。黒鋼に触れている部分だけが、温かく感じられた。
黒鋼が何かを言っているのだけれど、ファイにはそれが意味を成さないただの音としてしか聞こえない。
「ごめんね…」
こんなことになってまで心配をかけている。
彼にはもう、もっと気にかける存在があるのに。そんな優しさに甘えてばかりいる。
自分の存在がひどく邪魔なものに思えて、ファイはぽつりと呟いた。

いつ意識が途切れたものかも分からないまま、次に目を覚ました時にはすでに日が高く昇っていた。




 

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