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明け方に熱が少し出たので今日は大人しく寝てます。
今日はちょっと長編も無理そうです。ごめんなさい。
体調に気をつけよう。
職場の割と近くの部で新型インフルエンザの患者が出たそうです。
まあ怖い。
皆様もお気をつけて。
拍手ありがとうございます。
ではしたからどうぞ~。
よいしょよいしょと小さな手が布団を引きずる。
そのまま、日の差し込む縁側まで運ぶと、ファイトユゥイは達成感とともに、「ふぅっ」と大きく息をついた。
いくら布団ひとつと言えど、大柄な黒鋼が充分に寝転がれる大きさなのだ。その厚みと重さはファイとユゥイの二人がかりでもちょっと持て余してしまう。
縁側を降りた先には洗い物や布団を干すための竿が掲げられているが、さすがにそこに干すのは無理だろう。
布団の四隅を引っ張り、形を整えて二人は満足そうに顔を見合わせて笑った。
強大な魔力を持つ双子は、知世の下で術の扱い方などの指導を受けている。
魔力の組み立て方、発動のさせ方やその理論は国やその文化、何よりも個人の資質によって大きく異なるのだがそれを見極めるのは誰も彼もが出来るわけではない。
双子の桁違いの魔力をこの国で制御し得るとなると、それはこの国第一の魔力を持つ姫巫女をおいて他にはないのだ。
けれど、帝の実妹であり国中の結界を維持する知世に頻繁に面会するのは容易ではない。
これでも異例中の異例、と言えるほど双子と知世が顔を合わせる頻度は多いのだが、こうして月の三分の二は会う機会もなく双子は家で留守番を余儀なくされている。
黒鋼の家に来た最初に「ファイとユゥイは黒さまのめしつかい」と言うと、あっさりと黒鋼に否定された。
もしかして召使にもなれない役立たずなんだろうか、としょんぼりしていると、黒鋼はぶっきらぼうな声で
「ガキを扱き使う気はねえよ」
と言って二人の髪を乱暴に掻き混ぜた。
召使のような扱いはしないが、一緒に暮らすのだから子どもだって家の手伝いはちゃんとするもんだ、と言い含められて、ファイとユゥイは素直に頷いた。
召使だから仕事をさせられるのではなく、三人で生活するから、お互いのために家のことをするのだと言われれば得心がいった。
実のところ二人のそれまでの暮らしとは大きく異なっていたが、それまでが尋常でないことだけは知っていたので、これが普通なのだと言われれば疑問も湧かなかった。
何より三人で暮らすのだから、というのがユゥイもファイも嬉しかった。
とは言っても、さすがに包丁を持たせたり、火を使ったりするような手伝いは危なくてさせられない。
黒鋼が二人に命じたのは、拭き掃除や掃き掃除、家の中の簡単な片付け、そんな程度のことだった。
それでも、二人は一所懸命に自分たちに出来ることをしようと、張り切って着物畳み方を覚えて、箒やはたきの使い方を覚えた。
今日一番の一仕事を終え、二人は手を洗って干した布団と並んで縁側に座り、大きめの握り飯を食べる。
日持ちするように外側を炙ってある握り飯の中には、鰹節が入っていた。梅の塩漬けはまだ二人とも食べられないので、握り飯の中身は鰹節やクセのあまりない漬物であることが多い。
もぐもぐと咀嚼しながら、二人が話すのは、黒鋼のことばかりだった。
「黒さまいつ帰ってくるかなあ?」
「百数えたら帰って来てくれるかなあ?」
「帰ってきたらお布団干せて偉い、って褒めてくれるよねー」
「ご飯も残さず食べていい子って言ってくれるかも!」
「頭撫で撫でしてくれるかなぁ?」
「ファイはぎゅーってして欲しいっ!」
「ずるい、ユゥイも~」
「じゃあね、二人一緒なの!」
一緒、一緒とはしゃぐ声が、いつの間にか小さくなっていく。
ぽかぽかと差し込む日差しに、とろん、と瞼と唇が重くなっていった。
こしこしと小さな手で目を擦るがそれも徐々に力が抜けていき、いつしかぱたん、と投げ出された。
家に帰った黒鋼が見たのは、縁側に敷かれた布団と、その上にころりと転がって寝ている子どもの姿。
長閑な鳥の声の合間に、二人の唇からは小さくすうすうと寝息が零れている。
「ったく…」
風邪をひくぞ、と呟いて二人を抱き上げると、子どもたちは腕の中でふにゃん、と幸せそうな笑みを浮かべる。
よほど良い夢でも見ているのかと、黒鋼は片手で敷きなおした布団の上に二人を寝かせ、きちんと掛布団を肩までかけてやった。
良い夢、の中身は自分なのだとは想像もしないで。