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続きというよりも七夕特別編。
最近筆の進みが遅くてなんとも申し訳ない更新具合だったので、滑り込みで七夕小話です。
もっと早く書けるようになりたいです。
では下からどうぞー。
「なんだこりゃ」
思わず手にした短冊に黒鋼の口から力の抜けた声が漏れる。
手習いの上達を願った方がいいようなその短冊に書かれていたのは「黒鋼」の二文字。
鋼、の文字を書くのは難しかったと見えて、へろりと力の抜けるような文字になってしまっている。
それが一枚ではなく、二枚。
間違いなくあの双子だろう。いったい何を考えて書いたものやら、と小さく黒鋼は嘆息する。
考えることがわからない、という嘆きよりも何をやっているのだ、という呆れに近いものだ。
「ったく。色町の女じゃあるまいし、なんで人の名前なんか書いてんだ」
色町では七夕の日に遊女たちがそれぞれ訪れた馴染み客の名を短冊に書いて吊るす習わしがある。
思い出してぼやいてしまった黒鋼に非はない。
非はないが、即座に背後から抗議の声が上がった。
「いろまち?黒様、また女の人のとこいっちゃうのっ!?」
「お風呂に入ってもわかるんだから!」
「…」
また、と言われるほど頻繁に遊里通いをした記憶などここ最近ない。遠征帰りにたまに立ち寄る程度のものだ。
しかしそれも気がつかれていたのか、と双子の嗅覚に内心舌を巻く。
とん、と足元に軽い衝撃が走り、双子が後ろから駆け寄ってしがみついたのだと分かった。
「手習いは自分で頑張るもん…」
「黒様とずっと一緒にいたくて、黒様もそれでいいなって思ってくれたらって…。…そっちのほうが大事なお願いだもの」
双子の願いも幸せも黒鋼だから。だから短冊に書くのは手習いの上達でも願い事でもなくて、「黒鋼」の二文字なのだ。
「分かってる」
くしゃりと双子の頭をそれぞれに撫ぜてやれば、ぎゅっとしがみつく手に力がこもった。
小さな手が短冊に託した望み。それはおそらく天の星に願うよりも、よほど確かにふさわしい場所へと届くはずだ。
おまけ
「いろまちも今は仕方ないけど…でも…」
「ユゥイとファイがお嫁さんになったら、それからはダメだからね!」
いや、嫁にはなれないだろう。
さすがにそれを言ってしまうとこれ以上にこじれることは黒鋼にも分かったので、大人しく口を噤むことにした。