世界の片隅の奇妙な出会い・四十四

苦労人忍者の子育て話です。

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では下からどうぞー。

白鷺城の謁見の間は奇妙な空気に支配されていた。
といっても妙な緊張感を発しているのは数人の臣下のみであり、上座に座している帝の表情からは何も窺えない。
もっとも、女帝に近しい妹姫や近臣ならば、彼女の退屈はありありと読めたであろうが。
伏して帝の言葉を待つ家臣の姿と、手元の書状をちらりと見遣る。
彼女からは些事にすぎない。だが、彼らにそれを分かれと言っても無駄だろうことは予想できた。
「誰か、月読と黒鋼とをこれへ」

不機嫌に眉を寄せた長身の忍と姫巫女がやってきたのはすぐさまのことだ。
予め呼びつけられた内容を聞かされている黒鋼の表情は険しい。
先日黒鋼の手元から攫われた双子が、攫われた先で魔力を暴走させたことは記憶に新しい。
そのことについては、各方面へと然るべき沙汰は済んだものとばかり思っていたのだが。帝と姫巫女がいくら問題視しないといっても、やはり一部からはファイとユゥイの持つ魔力に疑心の芽がわきあがったようだ。
姫巫女の元へと訪れていた双子も呼びつけられ、人数の増えた謁見の間には物々しさが隠せない。
経験したことのない不穏な空気に双子は不安そうにあたりを見回すが、黒鋼がその場にいるのを見つけるとすぐに笑顔になった。
黒鋼がいるのならば、何も怖いことなどないのだ。
人数が集まるとすぐに奏上、という名目で喧々囂々と家臣の大演説が始まる。
曰く、姫巫女や帝に害をなすような魔力の持ち主をたかが一介の忍の手元に置いておくのは芳しくない。いつ邪心が兆し、その力を利用して善からぬ企てを起こすやもしれない。今のうちに何らかの手筈は打っておくべきである。
それが臣下の言い分だった。
さすがにそれには黒鋼だけでなく、双子が気分を害したらしい。
「どうして？知世姫は黒様のご主人様でしょう？」
「ファイもユゥイも知世姫のこと好きだから『むほん』なんてしないものー」
ぷん、と頬を膨らませて抗議する様はまるで子どもなのだが、この二人が一山を面影も無いほどに破壊したのも事実である。
捨て置けない、とばかりに臣下から抗議の声が上がる。
「あのように強力な力を持ちながら、邪な考えが兆さないなどと信じられません」
語気も荒々しく帝に言い募る家臣の言い分に、ユゥイが驚いた。忍耐の限界をとうに超えていた黒鋼よりも先に口を開く。
「じゃあ、おじさんは天照様よりも自分が強かったら『むほん』するの？」
ぐっと言葉に詰まった老臣に、ユゥイはきょとんとしている。
「するの？」
飽くまで無邪気な子どもの問いかけだ。
だが、帝への忠節ひと筋に、それを一家の矜持として生きてきた家臣には痛烈な皮肉である。
自らの誇りと、主張の矛盾を容赦なく突きつけられたのだから。
「自分だってしないのに、ファイとユゥイはする、って決め付けたの？」
変なのー、と首を傾げる双子に場の毒気はすっかり抜けてしまう。
「お姫様も天照様も、黒様がお姫様のこと大事なの知ってるもん」
「大好きな黒様が大事にしてる人だから、ファイもユゥイも大事にするものー」
ねえ、と帝に話かけると天照も苦笑していた。知世も袖で口元を押さえるが、瞳が明らかに笑っている。
それ以上何かを言い募ろうとした家臣を制し、帝は退がれ、とだけ告げた。食い下がろうとした臣下に、それ以上聞き入れるつもりはない、とややも厳しめの態度をとる帝ではあったが、去り際に少しだけ声をかけた。
「そなたが忠節に尽くすように、黒鋼も己の主に一身を捧げています。それを信じなさい」
納得したかは分からぬが、帝のその言葉に頭を下げ家臣は出て行った。
「鬱陶しい連中だ」
忌々しげに黒鋼が吐き捨てるのに、慌ててファイとユゥイが駆け寄る。
「黒様、怒ったら駄目ー」
「おじさんたちも天照様や知世姫のこと守るのがお仕事だから仕方ないよー」
双子は小さな手のひらで一生懸命黒鋼を宥める。

「ユゥイのことも、ファイのことも、黒様が分かってくれてるから大丈夫ー」
「ちょっとくらいの悪口なんか平気ー」
ね、と黒鋼に抱きついてそう言う双子の姿に、姫巫女と帝の唇に優しい微笑が自然と浮かんでいた。