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根性で書き上げてみました。もったいないから!
皆耳つきです。尻尾もあります。逃げてな方は逃げてー。
黒鋼がチビ双子と絡むお話は良く書いているので、今回はその逆で、双子がチビ黒鋼を可愛がるお話です。
ところで今月のシフトを知ったのは昨日仕事が始まってからでした。
どーゆーことー。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
天と地の境目すら分からぬほどの白銀に世界の全てが染まっている。
さくり、と真新しい雪を踏みつける音をさせながら、その中を誰か歩いていた。
雪に反射する光から目を守るために目深にフードを被り、分厚い毛皮の外套を着込んだその体は、背の高さからようやく男性かと分かる程度だ。
抱えた大振りの弓は確かに女では扱えそうもない。
そのままその人は、柔らかく歩みを進めるのが困難である雪の中をまるで滑るように歩いていた。
けれど、唐突に足がとまる。
しゃがみ込み、足元の雪をそっと払いのけた彼は小さく息を飲んだ。
薪の爆ぜる音を聞きながらユゥイは顔を上げた。
少し空が翳りだしている。こうなれば日が沈んでしまうのはすぐだ。
乾燥させた野菜と肉の燻製を煮込みながら、ユゥイは狩に出た双子の兄の帰りはまだだろうかと思案する。
この近辺に双子の生活を脅かすような脅威は存在しない。
獰猛な獣もおらず、戦が起こったという話も聞かない。
唯一の脅威はこの冬の厳しい寒さと、自分たちの住まう深い森であるが、それもまた同時に二人に大きな恵みをもたらすものでもある。無闇に恐れる必要もない。
どこかで怪我でもしていなければいいが、と思い始めた矢先に重厚な扉を叩く音がした。
こんな深い雪の中、扉を開けようとする者は一人しかいない。
だが、それにしても勝手に開けて入ればいいだけの話だ。おかしなこともあるものだと首を傾げながらユゥイは扉を開けた。
「たっだいま~」
途端に弾むような声が響く、。自分と同じ声質であるはずのそれはなんだかふわふわとして柔らかく聞こえた。
怪我などしているわけではなさそうだ。そのことにユゥイもほっと機を緩めた。
「お帰りなさい、ファイ。もしかして何か大物でも捕まえた?」
「うん、見てみてー!ユゥイも吃驚すると思うよー」
じゃーん、とファイが両手で持ち上げたそれにユゥイは言葉を失った。
確かにこんな荷物を抱えていたのでは一人で扉など開けられないはずだ。
「ファイ…」
「はーい」
「どこで拾ってきたのー!ちゃんと親御さんに返しなさい!」
ファイが拾ってきたのはどこからどう見ても『子ども』だった。
怒鳴りつけてすぐにユゥイは気がついた。
子どもの姿はボロボロだった。血のような汚れもそこかしこにこびりついている。
一目で、ただ事ではないことが分かった。
おそらくファイが見つけなければそのまま死んでいただろう。
慌てて室内へと入れ、ファイがぐるぐる巻きにしていた防寒着をゆっくりと取り払う。
「この子…!」
「うん、そう。この国のじゃないけどね」
子どもの硬質そうな黒髪が覗く。その髪に紛れるように、同じ毛色の獣の耳がひょこりと生えていた。
「人狼族…」
息を飲んだユゥイの隣で、ファイが小さく頷いた。
人と獣の二形を持つ種族がある。
獣人。時には魔物、妖精、あるいは神の一種とも呼ばれる彼らの姿は実に様々だ。
ファイとユゥイも、人の姿以外に猫の姿をとることが出来る一族の末裔だ。
子どもの時にはその姿は安定せず、人の姿に獣の耳や尻尾などが合わさった姿をとることが多い。
長じて力が安定することにより、完全に人型と獣型の二つの姿を自由に変えられるのだ。
獣人の一族は人間よりも長命で、魔力や腕力の強いものが多い。その反面繁殖力は人間ほど強くはない。
だが、その力を恐れた人間の一族との諍いは多く、今では多くの種族が滅んでしまった。
ファイとユゥイの暮らすこの地も、大昔、まだ二人が子どもだった頃に戦が起こり、獣人も人間も大勢が死んでしまった。
戦後、獣人は散り散りに各地へと逃げ、人間も自らが起こした戦で荒廃した土地を見捨てた。後に残った僅かな獣人の末裔が細々と暮らしている。
ファイの拾った子ども――少年の姿には獣人族の子どもの特徴がはっきりと出ている。
もしかしたらこの子どももそんな争いに巻き込まれたのかもしれない。
ユゥイは慌てて少年の体を確認した。
大きな怪我のないことに安堵しながらも慌ててスープを温めていた鍋をどかし、湯を沸かし始めた。
凍傷をおこしていないか、確かめるように着衣をはぐ。まだ幼い少年の体には痛々しい傷跡が生々しく残っていた。
あまりに酷く凍えている時には、急に温めてはいけない。ユゥイは気をつけて人肌よりも少し温かいぬるま湯を大きな桶に張る。
冷えないように上半身を布で巻いて、体を順にぬるま湯で温めた。冷めるごとに湯を足しながらの作業は気がつけば小一時間も経っていただろうか。
僅かに少年の呼吸が落ち着いたのを見て、双子はほっと顔を見合わせた。
「ねえ、ユゥイ。この子…うちに」
「放っとけなんて言うわけないでしょう」
ファイの言いたいことは分かる。きっとユゥイが見つけても同じ事をした。
傷の手当をし、ファイの寝台にそっと寝かせる。
熱のせいで魘されているのかもしれない。細い唇からは時折小さく呻き声が漏れる。
眉根を寄せるその表情に、せめて夢路が少しでも安らぐように、と祈りをこめて額に手をかざした。