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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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獣耳話3話目です。

寒いですね。雪こそ無かったものの、最低気温に昨日は職場で眩暈をおこしました。
貧血持ちではないのですが、さすがに一日で3回ほど視界が眩むと身の危険を感じます。
いーやー。冬なので仕方ないとはいえ、日中だけでももう少し暖かいと過ごしやすいのですが。

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞ。








警戒の色も露に自分たちをじっと睨むようにして見つめる子どもの姿に、ファイもユゥイも安堵する。
まだまだ塞がっていない傷も多いが、これならば後遺症の心配もなさそうだった。
睨みつけてくる瞳は炯炯と燃えるような赤で、初めて見るのになぜかひどく彼に相応しい気がした。
「痛むところは無い?」
当然ながら無言で答えようとしない。唇を引き結んで、じっと双子を見つめている。目覚めて、いきなり知らない土地で知らない人間に囲まれているのだ。警戒するなというのが無理な話だった。
仕方がないことだと思いはしても、やはり残念な気持ちは隠せない。
軽い歎息交じりの苦笑を溢して、ユゥイとファイは顔を見合わせた。
「…ここは、どこだ」
じり、と距離をとりながら、少年の唇から掠れた声が落ちた。
眠っている間に幾らか水分は取らせたものの、それだけでは足りなかったのだろう。
喉が渇いているのか、眉を寄せてつっかえるようにしながらそう言った。
「ここはね、ヴァレリア。って言ってもそう呼ばれていたのは随分昔の話で、今はそんな名前を知っている人も少ないんだけどねー。今は家の中には魔力を張り巡らせてあるけど、とっても寒いところだよ。一年の三分の二は雪に埋もれてる」
それを聞いて余程驚いたのか、少年の瞳が大きく見開かれた。
聞いたことも無い土地だったようだ。ファイもユゥイもここ以外の土地を知らないが、世界は随分と広いのだということだけは、時折ふらふらと迷い込む旅人から伝え聞く話で知っていた。
随分言葉も違うようだったから、少年が目覚める前に互いの言葉が分かる術をかけておいてよかった。言葉も分からなければ更に混乱していたことだろう。
帰らなければ、と少年の唇が動いた。
それは声にすらならないほど幽かな呟きだったから、ファイとユゥイには分からない。聞きなおそうとした途端に少年が寝台から降りようとしたものだから、慌てて止めた。
「離せ!」
「!駄目だよ、傷が広がる」
「早く、帰らなきゃ…!」
「危ないっ!」
身を起こすだけで精一杯だった体は疲労と痛みに耐え切れず、足をつく間もなくその場に少年の体は崩れ落ちた。
支えるユゥイとファイの腕をもどかしげに振り払おうとするが、その力は頼りない。それにすら苛立つようでもあった。
「大丈夫?」
二人の声も耳に入っていないのだろう。ぶんぶんと激しく首を横に振って、ひたすらに「帰る」のだと言う。
「早く、帰らないと…、父上も、母上も、まだ…皆まだ…!」
声にならない叫びを遮るように、少年の頬を包んだのは白い手のひらだった。
母親のそれとは違う少し硬い感触の手のひらは、男のものだけれどなぜだか泣きたくなるほど優しく感じられた。
「どうやって帰る?傷も治りきっていないその体じゃ、外に出たらすぐに死んでしまう」
「だって…、まだ皆戦ってるんだ。…父上も、母上も、…まだ」
「うん、今のままじゃそこまで辿り着けない」
「そんな…!だって、早くしないとっ…」
焦燥に、少年の瞳が揺れる。
ファイとユゥイが少年の体に感じた魔力の気配は彼本人の者ではない。他の誰かが、彼をこの地まで飛ばしたのだ。
極寒の雪にどれほどの時間晒されていたのか分からない。けれど、その残り香のような魔力からさえ伝わる守護の気配に、術者がどれほどこの少年の身を案じたのかが痛いほど分かった。そうでなければ、既に多くの傷を負った小さな体が雪に埋もれて生きていられるはずがないのだ。
この子だけは生かさなければ、思っていたに違いない。それは見知らぬ誰かではあったけれど、そうまでして守ろうとした命を容易く放り出せるわけが無かった。
「君を送り出した人は、どうしていた?」
「は、はう…え」
間近から瞳を覗き込んで問う。
過去へと飛んだ少年の瞳が大きく揺らいだ。
「どんな状況で、君を送り出した?」
「あ…」
瞬きを忘れたように、瞳が見開かれたまま、指先がカタカタと震えた。
いまだ癒えきらない傷を強引にこじ開けるようなまねは、残酷かもしれなかった。それが体でなく、心ならば尚更に。
それでも、彼がこれから生きていくためには目を逸らすことのできない現実だ。
どれほどの時間言葉を無くしていたのか。やがて強張っていた少年の肩から力が抜けた。
「なんで…、俺だけ」
答えを期待しない、呆然とした呟きは虚しく響く。
傍で見ているしかない双子の胸も痛んだ。寂しさにも似た、どこか悲しげな労わりの表情は、最後に少年を送り出した母親の笑顔にも似ていた。
だから、彼は否応なくわかってしまう。もう、故郷は無いのだと。
どこかで持ち続けた期待は、持ち続けたいと願うことそのものが儚い期待でもあった。
がくりと項垂れた少年に言い聞かせるように、優しい声が耳を打つ。
「たくさん眠って、傷を治して…。元のように動き回れるようになったら…そしたら君がいた所に戻れる方法を探そう?」
ね、と促す声に呆然としたまま、のろのろと少年は顔を上げた。
いつの間にか零れ落ちていた涙で頬は濡れていたけれど、その瞳の力強さは損なわれていない。
そのことに安堵しながら、ファイとユゥイは傷だらけの体を抱きしめる。拒絶は無かった。
黙ってされるがままにそれを受け入れた少年が、痛ましくもあった。



 

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