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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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御礼小話一種類追加です。現在は全3種。


予防接種の帰りに祖母のところに寄ると、従姉がこどもを連れてきていました。

まだ2ヶ月でなにやらふにゃふにゃ言ってました。
これでとうとう名実ともに「おばさん」と呼ばれるポジションになったわけです。

本気で赤ちゃんが泣く、笑うのタイミングは分からない(笑)
だって抱っこして大泣きしたかと思うと、お腹を撫で繰り回して脇とか擽るのは大喜びなんですもん。
君は犬か、と従姉と突っ込みながらわしゃわしゃ撫で回してきました。

どうせ次に会った時はまた大泣きするくせに!いいよいいよ、相手してやらあ!

頭痛いのも吹っ飛びましたとも。


では過去小話は下に収納しました。



 


日本国忍軍徒然苦労話⑭

 

薄暗い室内にぼんやりと浮かび上がる繊手。
爪を立てるほどにきつく、浅黒い男の肌に縋りつき律動に耐える。
薄い色の唇が次第に甘やかな声をあげ、うわ言のように呼んだ名前は、自分では無かった。

香には、清める、浄化する、という意味もあるのだと姫巫女は教えてくれた。
忍者というのは勤め上、香を焚き染めたりはしないものらしいが、休養中には心身を落ち着かせるために項を楽しむ者も少なくはないらしい。
教養の一環としてやはり知っておいた方がいいのだという。
武人であっても礼法や精神統一として嗜む者もいる。主君や客人の前に出る際には丁子を口に含んだり、改まった席に出るときに匂い袋を懐に忍ばせたりと様々だ。
日本国の斎主たる姫巫女の居室には当然のように柔らかで清しい香が漂っていた。
心を落ち着かせる香りにファイはふと思った。
女の体と違い、柔らかさや丸みとは程遠い自分の体だが、抱きしめた時にほのかに良い香りがすれば黒鋼も少しは気分が安らぐだろうか、と。
どこもかしこも肉付きが薄く、骨と皮ばかりの体では抱いてもあまり楽しくはなかろうと思う。
男としての自分を卑屈に思うことなどはもうないのだけれど、女の体と比べるとどうしたって固くて平坦なばかりの体はつまらなさそうだ。
もうちょっと黒鋼に楽しみがあっても良いだろう。そんなことを考えて、少しばかり洒落気を出してみることにした。

さすがにそんなことを考えているとは言いづらいが、いつもどこかしらに控えている忍を呼んで香を焚く時の注意などを聞く。
かつての故国では匂いをつける手段に使われていたのは香水だったが、こんな風に空気自体に香りをつけてしまうようなのも面白い、と感じた。
どちらもあまり匂いが主張しすぎるのは下品だという共通点に、人間の感性というのは案外似通ったところがあるものだと思う。
香水と違いどの程度加減すればよいのか検討がつかなかったが、幸いと言おうか黒鋼が数日城を開けているのでその間に練習してコツを掴めばいいと早速甲を焚いてみることにした。

以前よりは控えめになっているとは言え、相変わらず葉栗少年からは多種多様なものが贈られていた。
その中に香炉と練り香があった。
小さな練り香からは僅かな魔力の波動が感じられた。
少年の使いの話では、これは安眠のための呪があらかじめかけられた特殊な香なのだという。
安眠以外にも気分を落ち着かせたり痛みを和らげたりと、かける術のないようによって効果が違うらしい。
かけられた呪の魔力についても聞いてみたかったが、あいにくと使いの男はその方面には全く疎いらしく、明日にでも知世にでも術をかけた香の作り方を聞いてみようと思った。

香炉に火を灯した香を移し、かすかに立ち上る煙とともに僅かずつ香気が漂う。
それとともに徐々に魔力の気配も濃くなる。およそ常人では感じえないその波動をファイは感じ取っていたが、それが敵意からくるものではないことを知っているために殊更に警戒はしない。
どこか甘い香りと安眠のための呪、その相乗効果で眠りにつきやすくなるのだろうと分析した。
魔力の及ぶのを拒まなかったためか、いつもよりも眠気を強く感じた。
火が消えるのを見届けなくて大丈夫だろうかと思ったが、睡魔には逆らえず、ふわ、と小さく欠伸をして布団の上にころりと転がった。
歓迎すべきことではないが、いつも誰か見張りがついているのだし、彼らが見ているのならば大事にはなるまい。そう考えて瞳を閉じる。
ほどなくして唇からはすやすやと寝息がもれた。


安眠が明けて――。

否、明けることはなかった。明けるべき当人の姿が忽然と消えうせていたのだから。
時間を大幅に過ぎても戻ってこない忍を不振に思った仲間が、意識を失っている忍数人を見つけたのだ。
ファイの姿はどこにも無かった。
いつ、どのようにして、姿を消したのは果たして本人の意思であるのか、あるいは何か起こったのか。
分からぬままに混乱が混乱を招いた。


 


日本国忍軍徒然苦労話⑮

 

温かい水の中にたゆたうような、心地よさに沈んでいた。
時折浮上しかける意識は、すぐに甘い何かに命令され奥底へと引き戻されていく。
どこかで危険だと警鐘がなっている気もしたが、抗えず、ただ、引き寄せられるままに安逸として眠りを貪った。

意識が戻った時に感じたのは黴臭さのまじる冷たい空気と、手首を封じる枷の感触だった。


「一体何があった」
急遽呼び戻された黒鋼の顔は険しい。当然だ。
既にファイが姿を消したことや、見張りの忍が昏倒していたことも知らされている。
与えられた任務を途中で投げ出すのも不愉快ならば、自分の知らぬところで失踪紛いの事件を起こされたのも腹立たしい。
姿が消えてから二日も経過しているとなれば尚更だ。
苛立ちを隠しもしない黒鋼の様子に自らの失態を恥じて、警護と見張りに当たっていた忍たちは身を竦ませた。
「あまり脅かすものではありません。此度のことは忍軍だけでは荷が重い」
悠然と声をかけられるのはこの人くらいのものであろう。天照は渋面の黒鋼に恐れ気もなく遮ると、ついて来いと促した。
「魔力が絡んでいます」
その殆どが武力に頼り、魔力など持たない忍や兵では対処できないのだと天照は言った。
一層険しくなる黒鋼の表情に、天照は落ち着け、と珍しく宥めた。
「ファイさんのいなくなった後に残っていたのは布団だけ。
けれど、前の晩にあの方が香の焚き方を交代前の忍に聞いていたのも、実際に眠りにつく前に香を焚くのも何人かが見ています。
その香炉や残りの香が無い。おそらくは一緒に持ち去られたのでしょう」
「香炉?」
そんなものは黒鋼もファイも持ち込んだ覚えはない。
やはり、というように天照は小さく頷くと黒鋼に聞いた。
「このところファイさんに貢物を贈っていたのは一人だけでしょう?」
「あの坊主か…」
「けれど、振り向いてもらいたい子どものやり口と此度のことは明らかに度が違います」
「…親か」
「確証はありませんが、充分に考えられることです。貴方やファイさんを敵視するあまりに自らが墓穴を掘っただけのことを逆恨みするのは」
それだけを聞き終えると黒鋼は銀竜を掴みなおし踵を返す。
「どこへ行くのです?」
「決まってるだろうが、あいつを連れ戻しに行く」
いらいらと気が逸る黒鋼の頭を次の瞬間、天照は容赦なくはたいた。
盛大な音に忍の何人かがぎょっと目を剥く。
「私たちが手をこまねいているだけだと思っているのですか、勝算も無しに闇雲に動くのは無駄というものです。
連れ戻しに行くとお前は言いますが、将軍の屋敷や別邸、息のかかった者の家、潜伏先がどれだけあると考えているのです。ざっと数えても十や二十ではきかないというのに」
だが、ぐっと言葉に詰まった黒鋼を愉快そうにみやる天照の瞳は一切笑っていない。
「黒鋼、私はとても腹を立てているのですよ」
先ほどから黒鋼相手に言葉遣いを改まったそれから全く変えていないことにようやく気がつく。
自身の怒りをおさえるためにことさらそんな言葉遣いをしているのだろう。
「よりにもよって私の城で、忍の警護を掻い潜り、目を欺き、人間を連れ去る。帝の居城でそのようなこと、到底許されることではありません」
にっこりと微笑んだ『帝』の唇からは、黒鋼に逆賊を討ち人質を奪還せよ、との命令が下された。


少年は焦っていた。
最初は急な失脚に憤り落ち込む父親の姿を見て、不当に父を陥れた相手を成敗しようと思ったのだ。
だが、相手は父親や母親が言う「帝と姫巫女をたぶらかす魔物」とは全く違い、自分の出自や父の家柄のことなど気にも留めずに相手をしてくる。
見たこともないような姿に驚き興味を持った。穏やかな笑顔が大好きになった。
今まで少年の身近にいた人間は大人であれ子どもであれ、何かしら金品を与えればすぐに言うことを聞くようになったのに、彼はちっとも嬉しそうではなかった。
いつも傍にいる男が、好いた相手だということも知っていて、それでもどうにか自分のことを見てもらおうと必死になった。
そんな少年を見かねた彼の母親は根負けしたように「では一度こちらに連れて来て、それからそなたの気持ちを言って聞かせればよい」と呪の入った香を渡した。
強引にかどわかす様な真似に抵抗があったが、不意に薄暗い室内で抱き合う二人の姿が蘇り、激情に駆られた。
一抹の不安と期待とを込めて、贈った香が効力を発揮したのはそれからしばらく経ってのこと。
意識を無くしたまま運ばれたファイの姿は少年が目にするよりも早く、罪人を閉じ込める部屋へと繋がれた。
抗議の声も虚しく、両親は「魔物の姿がなくなれば帝も目を覚ましてくださるはず」と厳重に部屋の周りを警戒させ、少年ですら容易には近づけなくなった。

こんな筈ではなかったのに。
思いもよらぬ事態に唇を噛む少年の耳に使用人たちの声を潜めた囁きが飛び込んだ。
「では、やはり始末して…」
最初は何のことか分からなかったが、次の言葉を聴いた瞬間、全身から血の気が引いた。
「顔を潰してもあの金の髪は目立つから死体ごと燃やしてしまわないといけないと仰って」
「ですが帝の命令で監視の目が厳しくなっているのでしょう」
「ええ、ですからすぐに殺してしまうと逆に危険だと…」
そこまで聞けばもう何のことを言っているのか充分だった。
走り出そうとした足が凍り付いたように動かない。
ファイを助け出そうとすれば、帝の元に、黒鋼の所に駆け込むのが一番いい。けれど、それは同時に自分の両親を売り渡すことなのだと、理解していた。
足元にぽっかりと、奈落が広がっていた。


馬を出そうとしていた黒鋼の元に顔中涙でぐしゃぐしゃになった少年が飛び込んできたのは、それから一刻ほど後のことだった。
無言でぐいっと屋敷の見取り図を黒鋼の前に押し付ける。
握り締められ皺のよったそれを開くと、屋敷の大まかな間取りと、一箇所、赤い筆で囲まれた場所がある。
それが何なのか、聞くまでもない。
無言で黒鋼は少年の頭に手を置く。俯いたままの子どもがどんな気持ちで走ってきたか、知らぬわけではない。
「礼を言う」

黒鋼が去った後も、頭に置かれた掌の大きさと温かさに、少年の涙は止まらなかった。


 


日本国忍軍徒然苦労話⑯

 

おそらくは罪人を閉じ込めておくための部屋なのだろう。
手の届かない高い場所に小さな窓があるだけで、周りは全て塗り固めてある。
冷静に自分の置かれた状況を分析しながら、ファイは改めて自分の状況を分析する。
両の手を動けないように嵌めた手枷は鎖で壁に繋がれている。
扉は分厚い木で作ってあり、薄暗い室内では良く分からないがおそらくは頑丈な錠が外につけられているに違いない。
おまけに魔力の発動を邪魔するように結界まで張られてはお手上げだった。
(あのお香かなあ…)
強烈な眠気に襲われたが、あの時感じられる魔力からは嫌なものは感じなかった。
それ自体に悪意が篭っていたわけではないし使用者に害をなす目的で作られたものではないので、香自体に込められて魔力を感じてもそれが自分の身を危うくすることは考えてもいなかったのだ。
ただ、深い眠りに落ちる。
回りくどいやり方だが、こうして捕まってしまっているのだから情けない。
自分がこうも容易く攫われたのだとしたら、見張りについていた忍は無事なのだろうかと心配した。
そのまま捨て置かれたのならば多少はマシだろうが、邪魔と判断されて始末される可能性もある。
最初から内通者であったのだとすればあまり喜ばしい事態ではない。
それは知世や天照の身がすでに危険に晒されていることになる。
捕らえられている以上ここで心配してもどうしようがないのだが、とファイは小さくため息をついた。
それでも、何も出来ないとあっては頭しか使えない。
詮無いことだと思いながらも、気にかかることは山のようにあった。
(あの子、どうしてるかなあ?)
おそらくは自分がここに捕らわれる原因になった少年のことを考えた。
一時の気の迷いでこんなことをしても、彼がこんなことを本心から望むような性格にはとても思えない。
良くも悪くも純粋培養で、真っ直ぐな子どもだった。育った環境による偏りはあったとしても。
自分のしでかしたことに彼が傷ついていないか、それが心配だった。


帝の命令で兵が出されたとあっては、当然屋敷は混乱した。
当主の元将軍が出てくる暇も与えぬほどに迅速な指揮で次々に仕える家臣たちが捕縛される。
事情など全く知らされていない召使などは悲鳴を上げて我先に逃げ出そうとする。
混乱の最中、腕のたつ中忍の数名に元将軍の捕縛を命じると、黒鋼は馬に乗ったままファイの捕らえられている労へと向かった。
錠は複雑な作りで、その枠組みに嵌る唯一の鍵がなければ開かないという代物だった。舌打ちをして銀龍を構える。
こんなことに使うことには抵抗があったが、見るからに分厚い壁に他の得物では少々歯が立ちそうにない。
中にいるはずのファイならばどうにかするだろうという確信もあった。

強靭な体をもつ魔物ですら一刀の元に仕留める剣戟に、いかな堅固な壁であっても耐え切れるはずもなかった。
鼓膜が割れそうな程の轟音とともに壁ががらがらと崩れていく。
もうもうと立ち上る砂煙が薄れる頃合いを見計らって、もとは壁だった場所に開いた穴から室内へと侵入した。
すぐにのんきな抗議の声が上がった。
「黒たんったら乱暴〜。目に砂が入っちゃったよー」
壁の崩れ落ちた衝撃と砂埃で、ファイの姿はなんとも悲惨な有様だった。そのまま放っておかれたのだろう夜着は薄い土色に汚れている。髪の毛もぐちゃぐちゃだ。
黒鋼は鎖を剣で難なく断ち、手枷を嵌められたままのファイを肩に担ぎ上げた。
黙って黒鋼に運ばれながら、ファイはただいま、と小さく笑って言った。


非公式ながら、帝の御前に召しだされた少年は生きた心地がしなかった。
迅速な元将軍の処罰により、大きな混乱は起きていない。唯一、処罰の詳細についてはその理由に緘口令がしかれた。
一族揃っての死罪さえ覚悟はしていたが、驚いたことに元将軍の引退とその妻を含めて厳重な蟄居謹慎を命じられた他は、子どもらや近しい血縁者の降格処分や一時的な謹慎処分に留まった。
纏めて処分してしまうのはさすがに大きな混乱を招く原因になるし、長きに渡っての貢献を鑑みて、ということだった。
無論、少年自身も忍の監視を受ける身となる。
そのことを改めて、帝自身の口から告げられた。想像しないほどに軽い処分であることは間違いがないが、今目の前の畏怖とそれは別物だ。
妙齢の美女にしか見えない彼女の覇気に終始気圧され、喘ぐように頷くしかない少年をさすがに哀れに思ったのか、傍に控える蘇摩がそっと帝を宥めるように見つめた。
それに視線を返し、帝は最後に、と前置きをして口を開く。
「まだ黒鋼やファイさんを恨んでいますか?」
慌てて首を横に振った。それだけはない。
全ては自分の短慮が原因だった。

こんなことを起こす前に散々と女忍たちにからかわれたことがあった。
「葉栗」という自分の幼名を持ち出して、棘すらいまだ青い、と。食ってかかる少年に呆れた様に言葉が投げつけられる。
『坊ちゃんはいまだに自分が守られてることすら知らないのね』
『城が迎えた客人を命を狙うなんていうのは、帝と姫巫女の威信を傷つけるのも同じ』
『そのために城が兵軍として備えた人間を私兵の如くに使うのは兵力の乗っ取り。反逆罪と取られても仕方がない』
『帝や姫巫女の住まう城に私兵を潜り込ませることも反逆罪』
『黒鋼が拳骨食らわせて【子どもの行き過ぎた悪戯】って示さなきゃ、とっくに坊ちゃんも羽林将軍も縛り首か流刑よ』

腹を立てたあの時の言葉が、真実だと知っていて認めたくなかった。それは子どもの自尊心ゆえだ。それが自分自身はおろか、親兄弟の先行きさえも見誤らせた。
恨む、などと筋違いな考えだった。きつく、拳を握り締めた少年に、初めて、帝も唇が柔らかく微笑む。
「では、其方の監視と鍛錬は黒鋼に命じるとしましょう」


「黒様、…あんまりあの子怒んないであげてね」
外傷はほとんど無かったファイは、数日もたてばすっかり元通りに働いている。
城の炊事場の人間とはすっかり顔見知りになったらしく、今日も勝手に炊事場の片隅を借りて夕飯のねぶか雑炊を作ったらしい。
自分でも迂闊だったと自覚があるのか、あまり妙な物や使い勝手の分からない物を使うな、と念押ししたのには素直に頷いた。
「ガキが危ねえことしたら叱るのが基本だろうが」
黒鋼が「怒る」のでなく「叱る」と言ったことにファイはきょとんとする。違いが良く分かっていない。
それを表情で察したのだろう、黒鋼は食後の茶を飲みながら言葉を捜した。
「怒る、なんてのは自分の感情をぶつけるだけだろうが。叱るってのは厳しかろうが道理に外れたことや則を乱すことを正すことだ」
「そうなの?」
「あいつはまだガキだ。どれ一つとっても自分で成したことじゃねえ。
家にしたって、お前に贈りつけてきた品一つにしたって、あいつの父親や先代たちが築き上げてきたものを与えられてただけだ。
自分の手で成しえたことなんて何一つない」
それは、罪でさえも。
暗く沈んでしまいそうなファイの気持ちを汲み取るように黒鋼は言葉を続けた。
「だが…ガキだからこそ叱ってやれる」
思いも寄らぬ言葉にはっと目を見開くと、ファイは黒鋼を見つめた。いつもの眉間に皺を寄せた仏頂面だったが、そこに込められた不器用な感情は、きっとファイが慈しんで止まないものだ。
「うん…そうだね」
小さく頷いて、黒鋼の隣に座る。
無言でその体温に寄り添えば、温度と一緒に感情まで分かち合えるような気がした。


 

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