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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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これを黒ファイだと言ったら石を投げられる気がします!
でも黒ファイだと主張します。

貧乏苦学生黒鋼×だめんずうぉーかー水商売ファイ。
このお話の段階ではお互いに一切恋愛感情無し。
あからさまな描写はないものの、ファイのお相手は黒鋼ではないので要注意です。ちなみにお医者さんはラ王さんではありません。


拍手いつもありがとうございます。
皆様からいただく素敵なコメントにはネタがいっぱい…。


では下からどうぞ。









ファイは男の言葉にナイフとフォークを持つ手を止めた。おそらくは聞き間違いではない。
料理を口に運ぶ手を止めたファイを、ショックを受けているとでも思ったのか、男は今度はややも気まずそうに口早に告げた。
「今度結婚することになったんだ」
いや、まだ婚約段階なんだが…、などと気ぜわしく言い訳を紡ぐ。
顔と身なりは悪くない。職業は笑えるくらいお約束だが医師で、頭もそれほど悪いわけではない。今日、食事を誘われたこのレストランだって味も悪くないしワインもなかなか揃えが良い。
今まで自分が関係してきた過去の男達から比べると桁違いに優良物件なのは間違いないが、相手はどうやら火遊びよりは安定を選ぶらしい。
別れを切り出す舞台に、今夜このような高級ホテルのレストランを選んだあたりはそれなりに情人への気遣いのつもりか。
後ろめたいにしろ、それについては一定の評価を下せる、とファイは思った。
ファイのホストという職業、そして同性同士ということから派生する偏見に、結局平穏を選び離れていった人間は少なくない。自分以外にもそうやって別れを告げられた同業者を山のように見ている。
だからこそ責めるつもりもない。安心できる、落ち着ける場所を見つけたのならば、そこで幸せになってくれるのならば、ほんの少しの間の痛みを自分は我慢出来る。
ファイはそう思って微笑んだ。
「それはおめでとうございます」
祝辞を述べたファイに男は一瞬ぽかんとした後、満更でもなさそうな顔で照れていた。
そう、素直にファイは祝福できた。次の男の言葉がなければ。

「いや、けれど勘違いしないでくれ。君とのことを終わりにしたいわけじゃないんだ。結婚といっても恩師の娘さんだからで、けして彼女を愛しているから一緒になるわけじゃない。世間体として必要だからで、本当に愛しているのは君なんだ。
これからも…私のそばにいてくれるね」
訂正。こいつも大概アホな男だった。最悪。


こんこん、とドアをノックする。無論自分の部屋ではない。
朝、と呼ぶには日はもう高く、昼前というほうがふさわしいくらいだ。
「黒様、開けてー。帰ってるのは知ってるんだから~」
中から返事はない。
それでも飽きずにファイは部屋の前で待つ。
「黒様ー。今日の講義が無いのも知ってるんです~、早く開けないとロールキャベツが冷めちゃうから開けてー」
数秒後、部屋の中でごそごそと音がしたかと思うと、ギギッと音を立ててドアが開けられた。
安普請のこのアパートのドアの音が時々ホラーゲームの扉の開く効果音に似ているとファイは思っている。
開いたドアの向こう、のっそりと姿を現した部屋の住人は寝起きのせいもあってかそれはそれは凶悪な顔でファイを睨みつけていた。
「るっせえな…」
頭一つ以上背の高い上に、無駄のない筋肉を纏った肉体の男が不機嫌な形相であるのは恐怖以外の何でもないが、ファイは全く意に介することなく片手に持った鍋を掲げて見せた。
「ご飯、いらないの?まだ温かいよ」
数秒続いた無言の攻防の後、男はファイを部屋に入れた。


「で、今日は何だよ」
男の名前は黒鋼、という。ファイの隣に住んでいる。
「昨日別れてきたー」
あっさりと言うファイに黒鋼は胡乱な眼差しを向けた。
黒鋼が知る限りでも2年半の間に5人、ファイの恋人は変わっていた。どれも男だった。一番長くて一年足らず。他はと言うと、黒鋼の常識ではあれは付き合っているとか恋人だとかいう範疇には入らないのだが、それでもファイは「好きだったんだよ」と言う。
1週間で金を持ち逃げする男を恋人だったというファイの神経が黒鋼にはよく分からないが。
そもそも安アパートの隣同士、というだけで接点も何もない黒鋼とファイが知り合った切っ掛けが、ファイがその当時付き合っていた男との修羅場だった。
ファイの稼いだ金を散々競馬やパチンコにつぎ込んだ挙句、勝手に出て行った後も昼夜問わずファイの元へと金をせびりに来る男に黒鋼が切れた。本人にそのつもりはなかったにしても、バイトをしながら夜間大学へと通う黒鋼の睡眠を妨害したその男に対し一切憐憫はない。黒鋼はいささかの躊躇もく実力行使で地に沈めた。付きまとう男相手に半ば辟易していながらも強い態度に出られずに、金も体もずるずると言いなりになっていたファイと出会ったのもその時だった。
無論、ファイの仕事がホストだということも知っている。
何故ホストをやっている人間が同性愛嗜好者なのか、と聞いたことがあるがファイはあっさりとホストをしているのは恋人と暮らす生活費が手っ取り早く儲かるからだと言った。
とは言っても、その恋人とやらが熱中しているのはホステスやらキャバ嬢に貢ぎ込むことだったり、麻雀やパチンコで有り金全てをスってくることだったりする。
恋愛経験に乏しい黒鋼の目から見ても、「それはない」と思ってしまうような男を選んでしまうファイに、結果的に隣に住んでいる、という一点で黒鋼はいつも巻き込まれる。3人目の男と別れたあたりで黒鋼の雷は当然ファイにも落ちた。
それからというもの、ファイは黒鋼に対してなぜかやたらと構ってくるようになった。
最初は胡散臭そうな態度を隠しもしなかった黒鋼だったが、そのうちにファイが差し入れてくる料理や店からくすねてきたという酒の相伴に預かることとなった。要は収入の厳しい生活の中、食べ物をくれる人間を無碍には出来なかったのだ。
そんなわけでファイは店の無い日や恋人のいない間は黒鋼の部屋に遊びに来ることが多くなった。

ここしばらくは比較的に落ち着いた生活を送っていたはずだったが…と黒鋼の歎息をファイは黙って聞いている。
黒鋼に対し、ファイは迷惑をかけているとも思うし、その上でこうして相手をしてくれることを有難いと思っている。
「相手は医者だって言ってたか」
「大学病院勤務でねー、えらーい教授のお嬢さんと結婚するんだってー」
「…」
「オレ、ちゃんとおめでとうって言ったんだけど、相手はさ、オレと別れる気はないんだって…。
結婚しても奥さんとは別にオレと恋人でいたいなんてこと言うんだよ。
挙句に何言ったと思うー?『上に部屋を取ってあるんだ』だってー。バカじゃない?」
へらりと笑うファイに黒鋼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「別れろよ」
「だから別れてきたよー。黒たんに言われたもんねー、自分を大事にもっと大事に考えろって」
ファイは膝を抱えて黒鋼の背中にぽすんと体重をかけた。黒鋼は何も言わずに黙ってそれを受け止めている。


そんな義務があるわけでもないのに、ファイは恋人の出来た時と別れた時は黒鋼に報告してくる。
個人的なことだろうとも思うが、一々別れる際の騒ぎに巻き込まれていた黒鋼には聞く権利があるとファイは言う。
ある日、黒鋼の部屋にやって来たファイの姿を見た黒鋼は思わず自分からファイを部屋に引きずりこんだ。
ファイの顔には殴られでもしたかのような痕が残っていた。その当時付き合っていた5人目の恋人と別れたと言ってからひと月ほどだった。
「殴られたのか」
見れば分かるだろうに芸の無いことを聞くものだとどこか冷静な頭で考えた黒鋼に、タオルに包んだ氷で頬を冷やしながら、ファイは小さく頷く。
「うんー、ちょっとね…」
狭い部屋に二人、沈黙が落ちた。それ以上どう反応したらいいのか分からない黒鋼に、ファイはぽつりぽつりと口を開く。
きっとそのときは慰めて欲しいと思ったわけではなく、甘やかして欲しいと思ったわけではなくて。ただ、誰かに吐き出して楽になりたかったのだと思った。
「オレはね、もう終ってると思ってたよー。だってお金持ち出して女の子のとこに転がり込んで帰ってこなくなったから…」
もうとっくに別れたつもりだったんだよ、そう言ったファイの言葉に嘘は無いことを黒鋼は知っていた。
「お金無くなったから女の子のところを追い出されたんだと思う。オレとやり直したい、って来たよー」
次の瞬間ファイの顔色が冴えないのが殴られたからだけではないことを黒鋼は知らされる。
「オレが拒否したら…殴って無理矢理してきた。オレ女の子じゃないのにね、強姦したら言うこと聞くとでも思ったのかなあ」
黒鋼の顔が強張ったことに気づくとファイはあえて何でもないことのように振舞う。そうでないとなんだか自分が惨めだと思った。
「平気だよー。もう好きじゃないけど前は好きで付き合ってた相手だったんだしー。その時はセックスするのも当然だったんだしー」
そう笑ったファイの肩を黒鋼の手が掴んだ。痛かったけれど、ファイはそれを離して欲しいとも思わなかった。
「…平気じゃねえだろ」
「平気…だよ」
「そういうのは、女でも男でも関係ねえ、怖いもんなんだ。
怖かったり嫌だと思ったことを我慢するな。今は我慢出来ても、あとからもっと酷い傷になる」
そうなのかなあ、と言うよりも早くファイの瞳からは涙が伝っていた。
ぎゅっと抱きついた体を黒鋼は抱きしめ返してくれた。その体温と鼓動に安堵して、ファイはひどく泣けてしょうがなかった。
そうして、初めて自分がひどく傷ついていることに気がついたのだ。怒りや悔しさや悲しみを受け入れてくれる温度に何も考えずに縋ることを許されたのは初めてだったのかもしれない。
ひとしきり泣いて、黒鋼のシャツを濡らしてしまってから、ようやくファイは顔を上げる。
散々泣いた後の顔はひどいものだったけれど、痛みに気がつかないように笑っているよりは幾分もマシだ。
「黒たんはオレ専用の神様みたいだねー」
黒鋼の言葉の一つ一つでファイの中の今まで気がつかないようにしてきたものに名前が与えられ、形が与えられ、どんどん胸の中に落ちていく。
優しくて嬉しいばかりではなかったけれど、今まで自分が素通りしてきたものを改めて与えられたのだと分かる。
恋人ではない。けれど、ただ黙って受け入れてくれる人の存在をファイはその時心の底から感謝した。


それから、ファイは以前よりも少しだけ自分のことを思い返す余裕ができた。良くも悪くも少しだけ我侭を主張することを覚え始めた。
だから、今度の恋人とは上手くいくかもしれないと思っていたのだけれど。
「オレねー、おはようとか好きだよとか、無いと不安だし寂しいよ。メールもキスもいっぱいして欲しいし、オレのこと金ヅルだって思っててもいいから部屋に帰った時に誰かにいて欲しいんだー。独りぼっちは嫌だから、本当は一緒にいてくれるんなら体だけでもお金だけでも欲しがってもらうんでもいいんだよー」
「いいわけねえだろ」
「うん。黒様ならそう言うと思ったー」
くすくすと漏れる笑い声が明るかったことに、黒鋼は少し安堵した。黒鋼はこの奇妙な隣人がこの上もなく寂しがりやなことを知っている。けれど、それから逃れるために傷つく方へと向かうのは腹立たしく思うし、黙って見ていることが出来るほど、無関心にはなれない。
くるりと体勢を変えてファイに向き直ると、ファイはいっそ無邪気な笑顔で手を伸ばした。
「だから褒めてー?」
幼子が飛びつくようにファイは黒鋼の肩に顔を埋めた。黒鋼も拒まない。ファイの瞳に薄く滲んだ雫を知っていたから。
その背中を撫でるわけでもなく、ただ黙ってファイの好きにさせている。
「本当はねえ、やっぱり好きだったよー」
一瞬、寂しくないようにと縋ることを考えなかったわけではない。
けれど、おめでとうと言ってさよならを選んだ時、ファイが思ったのは恋人ではなく黒鋼だった。
もし、恋人に結婚しないで欲しいと縋ったら、黒鋼はどう思うだろうか。仕方がない、と言うだろうか、それとも軽蔑されるだろうか。

そう考えたら、答えは自ずと出ていた。

 

「黒様ぁー」
「何だよ」
「ありがとー」
鼻声だったことに黒鋼は気がつかない振りをした。

 

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