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最近仕事で気分が荒みがち…。
いらいらしてくると自分にも周りにも良くないので、どうにかしたいです。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ。
ぎしりとベッドのスプリングが軋む。
ビジネスホテルなどとは違いあからさまにそれを目的に作られたホテルは、どれだけ清潔に見せかけていてもどこか猥雑な匂いがする。
だからこそ、スキンもシャワーもそのために最初から備え付けられていると知っているから、後ろめたさが軽減するのだろうけれど。
そんなことばかりを考えながら、ファイは男を受け入れていた。
ぼんやりと男の肩越しに天井を見つめる。
気持ちが悪くて仕方がなかった。
キスまでは構わない。我慢が出来る。
けれど体を開いて受け入れた他人の熱に馴染むまで、猛烈な嫌悪感と気持ち悪さに襲われる。
何も相手が嫌いなわけではない。誰と抱き合ってもこうなのだ。
それでも人間の体は単純なもので、擦りあげられれば男の体は覚えのある快感に反応する。
揺さ振られ、気持ちの悪さを高まった性感が払拭しさえすれば、後は何も考えなくてもいい。
ただ、反応するがままに動けば良かった。
おそらく自分はセックスが好きではないのだろう、とファイは常々思っていた。
だが構造上外側に放出するしか発散させられない男の体は、相手がいれば当然体を重ねて快楽を得ることを求める。
それは好意や恋情からばかりではなく、ただの欲望の消化手段であることもあったが、同性ばかりを恋人に選び自らも男である以上ファイもそれは知っている。
欲望に愛しているふりを上手くコーティングして、気がつかないふりをするのだ。
抱き合う腕は時として、擦り切れてボロボロになった使い古しの愛の言葉よりもよほど優しく誤魔化してくれる。
すれ違ったり終わりの気配が見え隠れしている時には、いつもそうしてやり過ごしてきた。
真心ではないけれど、そうやって上手く立ち回ることで互いを傷つけないように出来るのならば、それでもいいのだと割り切れた。
セックスはけして愛情の発露ばかりではない。それでも、愛しているふりで他の何もかもを忘れてしまえる手段としては最適だったから。
唇から勝手に声が零れる。
覆いかぶさる相手の腰に、自分の足を絡めてもっと奥へと促した。
早く、追い上げて、何も考えないですむように。
けれど時折、何でこんなことをしているんだろうと思う。
そんな時はぽっかりと、自分の胸が虚ろなことに気がついた。
「不細工な顔ねえ」
しみじみとしたオーナーの声にぎょっとしたのはファイではなく店の他のスタッフだった。
「ゆーこさんひど~いっ!オレはいつも可愛いですー」
わざとむくれてみせるファイの頬をオーナーの白い指先がつついた。綺麗に塗られた爪にはキラキラと鮮やかな蝶が描かれている。
大きく開いた胸元とすらりと伸びた足を大胆に見せ付けるように深くスリットの入ったドレスは実に色っぽいのだが、不思議と厭らしさは感じない。
このオーナーがファイの隣に並ぶと美男美女なのだが、絶対に恋人同士には見えない。せいぜい猫を愛玩する飼い主だ。
綺麗に手入れされた爪でオーナーはむにむにとファイを頬を抓む。
「あーら、どこが可愛いのかしら?多少マシな顔になったと思ったのに、すぐに不細工になっちゃって」
「え~!だってオレの彼氏だって可愛いって言ってくれるのに~」
本当に猫の仔でもいじるようにファイを撫でる手が、目の下を押さえた。
「本当に欲しいのはその人の言葉?」
唐突な問いかけにぎくりと体を強張らせたファイの隣から、オーナーはするりと立ち上がった。
端から答えは期待していなかったのだろう。あるいは、その答えを自分が聞いても意味が無いと思ったのかもしれない。
その答えを知るべきなのは、ファイなのだから。
オーナーに取り残されたまま、ファイは俯いてジャケットの裾を握り締めた。
最近、鏡を見てぎょっとすることが多い。
以前ならば、付き合っている男に殴られた痣を映し出しファイにため息をつかせた鏡は、このごろではげっそりと痩せたファイの顔に浮かぶ隈を本人に突きつけている。
仕事は順調だ。恋人もいる。他にもう望むべきものなど、何もないではないか。ない筈だ。
そう自分に言い聞かせる。
開店までもうすぐだった。
それなのに、ファイは笑えない。
泣きたい時にあの人に頼ることなど、もう出来ないのに。