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…また、予定まで終らなかったのです。
伸びる、どんどん伸びる。OTL
おまけにあと2、3話はファイの暴走周期に入るので少々アレな展開かもしれないです。
予告しときました。ご注意ください。
再録用の編集をしていたらどんどん書き足したくなって困ります。
うわーん。
拍手ありがとうございました。
コメントへのお返事は本日中にはまとめさせていただきます。
では下からどうぞ。
広い部屋が嫌いだった。扉を開けた瞬間に感じる、そこに誰も待つ人のいない空しさは少しずつ体を内側から蝕んでいく。
それならばいっそ狭い部屋の方が気が安らいだ。
一緒にいてくれれば誰でも良かった。キスもセックスもその代償でしかなく、自分がそうである以上相手に何かを望むべくもなかったから、請われるままに金を渡すことも疑問には思わなかった。
そんな人間が去った後に感じるのは、体温が感じられない一抹の寂しさと僅かな安堵。そして、「ああやはり」という奇妙な納得だった。
ずっとそんな風にして人の間を流れるように生きていくばかりだと思っていたファイにとって、黒鋼との関わりは自分自身でも不思議に思えた。
ご飯を作って感謝される。小さな厄介ごとに対して怒る。
得体の知れない隣人のことなど放っておけばいいのに、彼はそうしない。
自らの欲望以外ではファイに無関心だった過去の男たちと比べるのが申し訳なくなるくらい、彼は全うな人間なのだ。
いつまでも一緒にいたい、と初めて思えた。
その一方で、もう彼に近づいてはいけないとファイの内側から警鐘が鳴り響く。
綺麗なひとだった。ファイの抱える汚れなど一切触れてはいけないような。
隣人として、あるいは友人としてでも関わっていけたらよかったのに、貪欲な心は持ち主を裏切りどんどんと黒鋼のことを欲しがった。
ちっぽけな、そして途方もない喜び。それから離れなければと訴える心、にファイは慰められ、また疲弊していた。
最後の客を見送り手を振る。
タクシーが見えなくなると思わず小さくため息が零れた。
空調がきいた店内と外の温度差に、首筋がうっすらと汗ばんでいる。軽い疲労を感じながら、ファイは仕事の終わりを迎えた。
他のホストやフロアスタッフに声をかけながら、自分の帰り支度をはじめる。
怪我をした黒鋼を見舞っていることを知っている店の人間は必要以上にファイを引き止めることはない。
途中数人に黒鋼の回復具合を尋ねられたり、軽く不義理を詰られながらファイは店を後にした。
鮮やかなネオンに彩られた不夜城は、あとほんの数時間で夜明けを迎える。目をさす様なけばけばしい光は、夜明けの気配を感じた途端にかえって空々しくみすぼらしい物へと変わり果てる。
愛を模した欲望の蔓延る街は、みっともない自分にはいっそ似合いだった。
それを知っていて、逃げるようにファイはタクシーへと滑り込む。
心のどこかが空しさを覚えながら、それでも先へ先へと進む心は自然と黒鋼のことを考えていた。
作り置いていたスープは彼の口に合ったろうか。
彼の部屋の洗剤がきれかけていたから、買い物の時に忘れないようにしないと。
タクシーが安アパートに近づくにつれ、つらつらとそんな考えが頭をよぎる。
まるで、そんな日常が当たり前のような幸せな錯覚にさえ陥りそうになる。
容姿を褒められたわけではない。愛の告白も、恋人の抱擁もない。
本当にたまたま隣り合って住んだだけの縁から顔見知りとなり、懇意にしていただけなのだ。
それでも、彼の前ではいつだって作り物ではない笑顔を向けていた。
機嫌をとるために、自分を見てもらうために笑うのではなく、笑いたいから笑っていた。
そんな日常の積み重ねを当たり前のように思えた幸せがファイを苛む。
黒鋼のことを思う気持ちは今までの男たちへの感情とは違っていてファイを困惑させる。
愛とか恋とか、それらしき言葉を探しても上手く当てはまらない。
ただ、優しくしてくれたから。一人の人間として扱ってくれたから。それだけで心を傾けてしまったつもりになったのかもしれなかった。
愛ではないのかもしれない。恋ではないのかもしれない。
傍にいるのが誰でも良かったように、黒鋼のことを好きになったつもりだったのかもしれない。
戯れにキスを仕掛けた時の強張った顔を思い出す。
可笑しいのと同時に、心がきし、と痛んだ。
とてもとても綺麗な心根の人だから。もうそんな人を欲しがるのは止めようとファイは思った。
手を伸ばしたいと思うことすら、自分には許されない気がするから。