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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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僕だけのかみさまの続きです。

ドジでノロマな亀とお呼びください。
今回も、今回も…!予定したとこまで書けなかった…。orz
本来この話の終わり部分を今日更新分の話の中間くらいにするつもりだったのに…何故。

これひょっとして「花の~」よりも長くなる?
ごめんなさい…。


では下からどうぞ。







怪我の回復に伴い、黒鋼も新たな収入の獲得先を検討し始めていた。
しかし、なかなか学業や生活と兼ね合いの取れる仕事先が見つからない。
もともとあまり希望する者のいない夜間の力仕事や日雇いなど単発の仕事が多かったのだが、最近はそんな仕事ですら数がないような状態だった。
しかしいくら仕事を選んではいられない状況であっても、最低限の睡眠時間の確保さえできないような仕事ではそもそも生活が成り立たない。
論文やレポートの提出日や最低限必要な出席数を黒鋼の事情だけで動かせるはずもなく、無情にも時間だけは確実に過ぎていく。
徐々に減っていく預貯金に黒鋼は暗澹とした。
最近では生活に必要な食料や物品の購入などをファイに頼ってしまっている。
「ある時払いでいいから」
そう言って、その時その時必要だけれども自分では入手を躊躇っていた物を、実に的確にファイは黒鋼の元に差し入れた。
一、二度は固辞出来ても、先の見通しが出来ない生活では厚意に甘える他食い延ばしのしようがない。
不承不承ながらもファイの助成を頼るしか出来なかった。
黒鋼がわずかに苛立っているのをファイは肌で感じていた。元々気配を察するのは敏い方なのだ。
誰かにここまで面倒をみさせるというのは不本意なはずだ。けれど、そうしないと生活できない自分の現状とその不甲斐無さに自分自身で苛立っている。
黒鋼自身が口には出さない苛立ちをファイは静かに受け止めた。
ピリピリと互いの肌を刺激するような幽かな軋みは、静かに、確実に降り積もっていく。

ファイの仕事が休みだったので、その日はいつもよりも遅めに夕食をとった。
レポートの合間に黒鋼は履歴書を書いている。必須とはいえ証明写真の出費でさえ今は痛い。
思わずついたため息さえ思ったよりも荒々しいことに黒鋼が自分で驚いた。
食器を洗っていたファイが気遣わしげに見つめていた。
「少し、休みなよ」
そうも言ってられないのもわかるけどね、と言いながらファイは冷やしておいたワインを取り出した。
「頭もちゃんと休ませてあげないと、疲れてパンクしちゃうよー。ね」
適当なグラスに注がれたスパークリングワインの気泡が気持ちよさげな音をたてる。
黙って差し出されたそれを受け取り、黒鋼は一気に呷った。
喉を落ちていく液体の冷たさは心地よく、疲れていた頭がほんの少しだけクリアになる。
「もー、勿体無い呑み方しないでよー」
口を尖らせるファイだが、その瞳は柔らかく笑んでいた。そのまましばらくの間二人とも無言でワインを飲み続ける。
ボトルの半分ほどをあけた時、唐突に黒鋼が口を開いた。
「迷惑かけて悪いな」
ファイの動きがぴたりと止まった。黒鋼に向けられた視線は困惑していて、彼にしては珍しくどう反応すればいいのか分からないようだ。
「な…に?」
へにゃりと眉を下げて黒鋼を困ったように見つめる。
困っているのは黒鋼の方だった。ファイの態度には恩着せがましいところなど何もなくて、このままではずるずると甘えっぱなしになってしまうような気がしていた。
ファイの厚意に感謝する一方で、まるでヒモそのものだと自分の中で卑下する思いもある。
自分自身に釘を刺しておかなければ、居心地の悪さは拭えない。
「…オレの方がもっと迷惑かけて、それでもいっぱいいっぱい助けてもらってるのに~。変な黒たーん」
「金の絡むことは後で拗れないように割り切っておきたいんだよ。お互いに納得できねえと厄介だからな」
いくら信用していても金銭が絡んだ途端に揉め事へと発展してしまうことは多々ある。黒鋼の数少ない人生経験から学んだのは、それまでに築き上げてきた関係を大事にしたいと考えるのならば、多少他人行儀ではあっても金銭関係はきちんと取り決めをしておいた方がいいということだった。
「それはそうだけど…。でも黒たんは働き出したら返すって言ったじゃない?本当にだらしない人や返すつもりのない人は、自分からそんなこと言い出さないよー」
「その返すあてだって今は確実じゃねえだろ」
「だって…。オレがしたくてしてることだから…黒様にお世話になってきたこともひっくるめて、本当はそんなのをお金で換算したくないんだ」
黒鋼がそれをよしとしないことを知っていたから、ファイは黒鋼がいずれ世話になった分を返すと言ったとおりに頼まれた買い物の会計を分けてある。
無論、自分がしてあげたいと思ったものは黒鋼には黙って自分で支払いを済ませている。
おそらくはそんなことも黒鋼は勘付いてはいるのだろうけれど、口にするほど野暮でもないらしい。
「だから、だ…。もし俺に返すあてが出来るまで待てなかったら遠慮なく何でも言い付けろよ。まあ、出来る範囲でだが何でもする」
要するに金銭面での借りが無利子である分、労働でファイの厚意に報いたいということだった。
口下手で自分でも上手い言いようが分からないのだろう。黒鋼は酔っているわけでもないのに視線を彷徨わせながら、言葉を選んだ。
思わずファイの指先が強張る。
「何それー。体で返してくれるのー?」
「おま…!他に言いようがねえのかよっ」
茶化したファイの言葉に即座に黒鋼が噛み付いた。
 

(ダメだよ)
今までに幾度も鳴り響いた警鐘が、ファイの頭の中で響く。
(オレなんかに付け入る隙を与えてしまうじゃない)
瞼の奥が熱くなる。
表現のしようがない感情の奔流が噴出そうとしていた。
その一方で、小さく安堵する。
もう、これで終らせられる。安らかだった隣人の日々を。


黒鋼は想像もしていないのだろう。ささくれ立っていくファイの心中など。
ファイも想像できていない。いくら不足の事態とはいえ、他人に生活を頼らざるを得ない黒鋼の焦燥を。
互いに、自分自身の姿がみっともないと感じている。そうして目を逸らしたのは、自分の姿からではなく、相手の姿から。

不協和音が、飽和する。


「じゃあキスさせて」
何を言われたのか理解するよりも先に、黒鋼の目の前がかげる。
視界が遮られる一瞬前、黒鋼の瞳に映し出されたのは、蒼い瞳だった。


 

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