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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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危険信号の続きです。
あと一話。

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞー。


 







暇ならば飲まないか、と声をかけたのはファイの方からだった。
誘いに難色を示すかという予想とは裏腹に黒鋼はあっさりとそれを承諾した。
軍人が良く使う、基地に程近い安い飲み屋は避けて個室の取れる店を予約する。
酒を飲み交わすだけならばその辺りの店でよかった。わざわざ違う店を選んだことに何か目的があることを黒鋼も察しただろうが、何も聞いてはこない。
それがらしくないようでもあるし、ひどく彼らしいとも思えた。
個室に通されていくつか酒と料理が運ばれてくる。給仕の人間が下ったのを確認して、口を開いたのは黒鋼の方だった。
「で、俺に何の用だ」
「せっかちだなあ。ご飯食べてからでもいいじゃないー」
砕いたアーモンドをまぶした海老フライを口へとに運ぶファイにならうように、黒鋼もアルコール度数の高い酒を口にした。
シンプルな内装のようで、ここは盗聴や盗撮への対応は万全である。わざわざ司令官の名前でとったのだ。
少し食が進んだところでファイが黒鋼に向き直る。
「オレの仕事の中にちょっと特殊な任務があってねー。色々調べたんだけど、君に聞くのが一番かなって思って~」
ファイの声に黒鋼は呆れた表情を隠さない。
「尉官がわざわざ佐官に聞かせるような情報を持ってるとも思えねえがな」
「またまた~。だって黒様ただの大尉じゃないでしょ?…ダイドウジの婚約者だって聞いたよ」
またその噂か、と黒鋼は鬱陶しそうに呟く。
「ガセだ。確かに遠縁で顔見知りだが、んな間柄じゃねえ」
「そう。でも君の直接のバックはダイドウジの社長だよね」
ただの遠縁なんて嘘でしょう、とファイが微笑めば改めて黒鋼が不敵な笑みを返す。肯定とも否定とも取れないそれを、蜘蛛のように絡め取らなければならない。
知る者は少ないが、将軍や佐官の中には彼らの間だけで通じる暗号のような紋章がある。
先日基地を訪れた将軍の紋章の形が鳥であることを思い出した時には彼女が「ジェネラル・ホーク」かと考えもしたのだが、生憎とそれは鷹ではなく金色の烏だった。
司令官を始めとし、大隊を指揮する佐官たちを探ってみたが、既にファイが得ている以上の情報を持っている者は誰一人としていなかった。
その気になれば個々人の出自や経歴、性癖までも調べ上げることが出来るファイに何かを隠し通すことが困難なのだ。
唯一読み解けなかったパンドラボックスの解析を終えたのは今朝のことだ。表向きには出てこない記録だ。そこには、二度にわたるジェネラル・ホークを司令官とした攻防が、この基地だけでなく周辺地域に対してもどれだけ重要な戦闘であったのかが克明に記されていた。
重要であるだけに公開されれば、各方面に波紋を広げるのは必至だ。下手をすれば複数の国家間で新たな火種となりかねない。無用の軋轢を避けるためには隠されなければいけない情報であった。
けれど、そこにも問題の人物の正体は書かれていない。
唯一、その人物に対して他の人間とは異なる見解を持っていたのが黒鋼だ。
その彼が軍と関わりの深い企業と個人的に大きなパイプを持っている。それをファイは無視できない。もっと早く分からなかったのかと自分を唾棄したくなる。
「君が直接には企業と関わってはいなくても、ダイドウジの片手に数えられる存在なのは確かなんだよねー。ダイドウジみたいな大きな組織になると取引先は個人だけじゃない、国や軍みたいな大きな存在も当然含まれる。現にダイドウジの社長の一番仲良しなお友達はとある国のお姫様らしいしね」
何が言いたいのだと目で促す黒鋼に、ファイはにこりといつもの作り笑顔を向ける。人の警戒心を解く笑顔だ。
仮面と本来の表情が同化して、今では何が嘘で何が本当か分からなくなってしまった笑顔だったけれど。
「司令官にもお話したんだけどねー。オレ実はちょっと特殊な任務を受けてこの基地に来たんだよー。極秘事項も色々あって全部は言えないけどね。その調査の一環でこの基地のことも色々調べたよ」
今言ったのは全て本当だ。この軍の上層部からの命令でない、という一点だけが違う。けれどそれについては名言していないのだからはっきりと偽りであるわけではない。
「それでもやっぱり急に外から来た人間の調査だから、付け焼刃みたいなところがあってー。最終的にはこうして直接聞くしかないんだけどね。黙秘権もあるけど、司令官の了承はとってあるから黒様の判断でオレの質問に答えて」
「上官の命令は絶対じゃねえのか」
「オレが強制しても、答えたくないことは君は絶対答えてくれないよ」
短い付き合いではあるが黒鋼の人となりはファイなりに把握した。絶対的な縦社会である軍部だが、この規格外の男はどんな権力でもってしても好きなようには出来ないだろう。
無理に押さえつければ、彼はどんな手段でもってしても抗うはずだ。自らの力でのし上がったわけではないこの基地の司令官の手には余っている。黒鋼自身が自らそうとするわけではないが、バックについている企業の存在を無視も出来ない。
カラン、とグラスの中で氷が鳴る。それをもてあそびながらファイは悠然と座る男に問うた。ただの勘でしかないが、確信に近い。
「ジェネラル・ホークは君?」
「おとぎ話だっつったろ」
「でも司令官殿の顔色は変わったよ」
つかえねえ奴だな、と吐き捨てる声色のどこにも上官に対する敬意は存在しない。
実際鎌をかけてみただけだったのだが、ファイが想像していた以上のうろたえようだった。けして外部に漏らしてはいけないのだと聞きもしないのに喋ってくれた。
ジェネラル・ホークとは何か、という問いに対する答えは用意していても、ジェネラル・ホークは黒鋼なのかという核心には何の準備も出来ていないようだった。
およそ司令官の椅子に座る器量ではないのだろう。
それに引き換え、黒鋼は顔色一つ変えない。先ほどの吐き捨てるような言葉が返答だった。それ以上の肯定も否定も聞き出すだけ無駄だろう、とファイは判断する。
これで自分の欲しい情報は全て得た。後はどうかしてこの基地を切り崩すだけだ。
小さな達成感に浸っていると唐突にその手からグラスを取り上げられる。
「俺も一つ聞きたいことがある」
テーブルの上にことりと置かれたグラスを思わず目で追う。その耳に黒鋼の声が突き刺さった。
「お前こそ何者だ」
「何のことかなー」
一気に部屋の温度が下ったような気がした。
「お前が言えないなら、言ってやろうか?」
白を切るファイの目の前で黒鋼が壁に持たれかかる。
ドアまでの道を塞がれたことに気がついてファイは他の退路を算段する。
黒鋼が何を知っているかまでは分からないが、情報戦ならば自分に分があるはずだった。どう言いくるめようかと思案したファイの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。
「『ファイ・D・フローライト』なんて偽名じゃあいくら調べても何も出てきやしねえ。苦労したぜ」
「なっ…!!」
表向きの必要な情報は過不足なく揃っている。調べてもどこにも穴はないはずだった。けれど、それ自体が偽りであると黒鋼は何故か知っている。
「何言ってるの…?オレはファイ・D・フローライトで…」
「セレスの用意した情報の上では、な」
「…!」
「本当のお前はどこの記録にも残っていねえ。血縁関係から洗おうとしても家名が存在しねえ。ただの孤児ならそこで終ってたんだろうがな…。家名を持たない家ってのがある」
ひやりとファイの背中に見えない刃物が突きつけられた。
誰だ、これは。
目の前にいるのは、腕力任せの無頼な尉官ではない。
「家名を必要としないのは最下層の貧民と…王族だ、しかも特定の国のな。お前が気づいているかどうかはわからねえが、明らかに前者じゃねえんだよ、身にまとう空気が。人種と容貌で出身地域はある程度絞れる」
嫌な汗がじわりと湧いた。
ファイの出自など知っているのは、アシュラ王と自分だけのはずだ。一介の軍人の知りえることではない。
「忘れたわけじゃねえだろ。ダイドウジみたいな馬鹿でかい団体のトップと王侯貴族の関係くらい。どこから回ってきたのか知らねえが、古い肖像画が残ってたぜ。家系図から名前は消されていたが肖像画の裏には残ってた」
危険だ。早くこの男を始末してしまわないと。ファイの頭の中で警鐘がどんどん大きくなっていく。
それなのに、赤い瞳に縫いとめられているように体が動かない。
生まれて初めて、逃げたい、と思った。
「『ユゥイ』」
弾かれたようにファイが顔を上げる。信じられない気持ちで常の冷静さを欠いていた。自覚はあるのに、本来の自分が取り戻せないほどそれは強い衝撃だった。

「それがお前の名前か。ヴァレリア最後の王族」
それともウィザードと呼んでやろうか。
「!」
けして誰にも知られていないファイの二つ名。それを易々と看破されたことにファイは殴られるよりも酷い衝撃を受けた。
立ち上がった拍子にグラスが倒れて、割れた。
けれども衝撃はそれで終らなかった。

「セレスは崩壊した。お前の主人はもういねえよ」

嘘だ、と叫ぶ間も無かった。
瞬く間に腕をとられ、捻じ伏せられた。舌を噛むよりも早く、ちくりとした痛みが首筋に走り。
覚えているのはそこまでだった。

 

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