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王と麒麟は運命共同体です。
某さまの日記で「ファイは誰にでも跪く」と書いてあってすごく納得しました。
ちょっとは逡巡…しなさそう。
では下からどうぞー。
この国の後宮は空である。
女王が即位した折には在位中まったく使われなかった、ということがないでもない。しかし今のこの国の王は男である。即位前に既に妻帯しており、伴侶に慮って王后以外の女性を後宮に入れなかった王もいたとはいえ、男王の在位中に後宮に誰も住んでいないというのは珍事である。ましてやそれが年若い武人であれば尚更だ。
それとなく美貌と名高い歌姫や舞姫を宴の席に侍らせても夜伽の声すらかからない。
後宮が賑わうにはどうしたらいいかと知恵を絞った臣達が最終的に相談したのは王に最も近しいその片腕であった。
「黒様。どうして後宮に人を入れないのー?」
麒麟に唐突に尋ねられ、庭院に寝そべっていた黒鋼の片眉がぴくりと動いた。
「女か」
「そうみたいー。もっと後宮に人を置けば王宮も賑わって、この国の繁栄ももっと喧伝されるのにーって」
くだらない、と一刀両断する主を前に麒麟はどうして?と首を傾げる。人を置いて、さらにその世話をする人を増やせば職を求める者を雇い入れることが出来る。働き口を求める者たちへの救済政策としても良いのではないかと思ったのだ。
慈悲深い、と呼ばれる麒麟の性質を黒鋼は阿呆の一言で片づける。
「歴代の王の中で後宮が原因で国が荒れた王朝と、後宮以外が原因で荒れた王朝とを数えてみろ」
数えるまでもなく後者は皆無に等しい。
「それでも…」
なおも言い募ろうとした己の麒麟の額を黒鋼は指で弾いた。痛い、と文句を言う声など素知らぬ風だ。
「そんなに後宮を使ってほしいのか」
「…でも皆使ってほしいみたいだったよー?」
黒鋼はしばらく目を閉じたままだったが、ややあって特徴的な赤い瞳を覗かせると麒麟を呼んだ。
「ならお前にやる」
「?」
「後宮丸ごとお前にやる。宝物庫にするなり薬草の貯蔵庫にするなり好きにしろ」
ぱちぱちと零れそうなほど大きく瞳を見開いて、麒麟は黒鋼に尋ねた。
「何でも?」
「おう」
「じゃあ、じゃあね。荒民や病人の保護に使ってもいいー?国庫も使っちゃうかも…というよりも結構使うと思うんだけどー。あとねー」
お前にやったんだから好きに使え、と言い捨てた王は再び目を閉じた。その横で麒麟は嬉しそうに王の顔を飽きることなく見つめていた。柔らかな風が吹く。
後日、蓬山で女神が「麒麟に後宮を与えるなんて、そっちの方が良からぬ誤解や混乱を与えそうじゃない?」と呟いたとか。