帰りたくなる

堀鐔小話です。

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞ。

早く帰りたい、と思う時がある。

黒鋼は出張先の居酒屋で眉を寄せた。
味付けが濃いのだ。やたらと塩辛いだけの惣菜と火の入りすぎたほっけの開きをストレートの焼酎で流し込む。
仕事上がりの疲れが余計に肩にのしかかってくる。

とっと帰りたい、と思った。
思った瞬間、脳裏にぱっと浮かんだのは淡い金色の頭だ。
こんな時に思い出すのがよりにもよって…、と嘆きたくもなる。
けれど耳にふわん、と蘇った声に苦笑するしかない。

きっと黒鋼が帰ったらこう言うのだ。

『黒様、お帰りなさーい。ご飯どうするー？黒様が帰ってくるからって思って煮物とお味噌汁は作ったんだー。先にシャワーにするならその間に何か作っておくからー』

柄にもなく思った。

早く帰りたい。