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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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生存欲が地を這っているファイの大学生パラレルシリーズです。
「夢と知りせば」の対です。
甘さが足りないので各自当分は必須でお願いいたします。(なんて他力本願)


ネットの海や黒ファイの網の中で心奪われる小説に出会うたびに、「こんな切ない話が書きたい!」「こんだけ人の心が揺さぶれるものが書きたい!」と思うのですが…。
皆様どこであれだけの才能を磨いているのだろうと思います。
あと、相棒の筆力(内容とか速度とか手法とかも含めて)の半分でもあったらなあとよく思います。

私の知らないところに才能売ってるコンビニがあるとしか思えないんだぜ。

相変わらず拙い話しか書けませんが、お付き合いくださる皆様に感謝です。
拍手もありがとうございます。


では下からどうぞ。








力なく横たわる体は一目で尋常でないと知れた。
体内を巡る血が一瞬凍りついた錯覚。
けれど、体は次の行動のためにその足を動かしていた。そのことにホッとする。

床に散った金色の髪が持ち主の顔を隠している。
抱き起こそうと手をかけた肩の薄さに驚くよりも先に恐ろしさに似たものを感じた。
まるで刺さりそうなほどにはっきりと骨の感触が伝わる。以前から細い体だと思っていた。だが、今はそれ以上に成人男性の体としてありうべからざる窶れ様となっている。

自らの体にもたせ掛けるようにして仰向かせた顔から一切の血の気は引き、病的なほどに青白い。以前から白かったその肌の不健康さに眉を顰めたくなる。いや、実際に眉間の皺は深いものになったのかもしれない。
白い肌だけに目の下の隈が痛々しかった。
我知らず、舌打ちする。しんと静まり返った部屋にそれはやけに響いた。
どれほど放置されているのかは知らないが、パソコンと空調だけが稼動する部屋は生身の人間が生活する独特の温度からとても遠い。
乾いた唇が可哀想で、手持ちの荷物から引っ張り出したペットボトルの水を口に含ませる。口の端から一筋二筋と零れたが、ファイはそれを素直に飲み込んだ。
もともと食欲からも睡眠からも縁遠い。そう聞かされていた相手だった。
知りながらそれを放置した自分が黒鋼は呪わしい。

僅かとはいえ、水分が摂取されたことが刺激になったのか、ファイの瞼がピクリと動いた。
茫洋と焦点の定まらない蒼い瞳が覗く。それが黒鋼の姿を見とめ、不思議そうに瞬いた。
「夢なのになんで黒様いるんだろう…?」
掠れて声よりも吐息に近い言葉だった。現を認識出来ないファイは、じっと黒鋼を見つめている。
「おい、聞こえてるのか?起きられるなら…」
黒鋼の声を、むずかる子供のようにファイはわかんない、と繰り返して遮った。
冷えた指先をのろのろと持ち上げて黒鋼に縋りつく。ファイから擦り寄ったその体重があまりにも軽くて、黒鋼は石でも飲み込んだように呼吸が苦しくなる。
ぼんやりと微笑んだファイが夢だからいいよね、とわけの分からない言葉を繰り返した。
夢だから構わないよね、まるで自分自身に言い聞かせているように唇が震える。
「好きだよ」
蒼い瞳が黒鋼を射抜く。逸らすことも、許されない何かがあった。
果ての知れない蒼い瞳は黒鋼を飲み込みそうだ。
「オレは…黒鋼が、好きなんだよ」
息をするのも苦しそうにファイが囁く。ごめんなさい、と。泣きそうな顔で、なのに笑っていた。
どんな気後れや、切望があるのか。今のファイは隠そうともせず、隠すだけの力もない。
ただ、唇が震えるように望みだけを零していく。
「いっぱいぎゅって抱っこされたい。
いっぱいキスしたい。
一緒の部屋でご飯食べて、セックスして、そのまま同じベッドで寝てたい」
引きつるような呼気は言葉を不明瞭に汚したけれど、黒鋼の耳にはファイの声がはっきりと届いていた。
「黒鋼が、好き」
背中を慄然とした確信が走った。
ファイの言葉を、もう、とうから待っていたのだ。
互いに自覚のなかった望みに初めて曝されて、黒鋼がらしくなく迷うのがファイにも伝わったのだろう。
泣くように笑う。その姿を黒鋼は、手に入れたい、と感じた。


踏み込んでしまってもいいのだろうか。
そう逡巡する。
けれど、弱弱しく胸元に縋られるその手を振り払う気は欠片もなかった。

「なあ」
口の中が干上がるような気がする。
耳の奥で響いているのは自身の鼓動の音だと、場違いに冴えた頭が判断する。
「もし俺が、それ全部叶えてやったら…」
自分の唇がまるで外から操作されているように勝手に言葉を紡いでいた。
「お前は俺のものになるのか」
気分は審判を待つ罪人のようだった。
一瞬の沈黙を打ち破るように、ファイの唇がかそけき吐息のような声を漏らす。
「うん」

その瞬間、黒鋼は悟った。
今、手の中の体温が自分のものになり、自分の鼓動がファイに奪われていったことに。

「いいよ…」
黒鋼が好き、全部あげる、なんだって構わない。
うわ言のように繰り返される何もかもは、ファイが正気ではなかったからこそ、何よりも真摯な本音なのだと知れる。
眠るように瞼を閉じたファイの体から力が抜ける。小さな呼吸に、再度意識を無くしたのだと分かった。


全部あげる。
 

そう言って差し出された痩身を黒鋼はきつく抱きしめていた。

 

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