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夜魔国にて。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ~。
瞳の色を常と変えた世界では、ファイは言葉が通じない。
多少は救いになったことと言えば、黒鋼はどうにか言葉が通じるらしく、わけの分からぬ子細は彼に任せている間に上手く済んだらしいこと。
新たに発見したことは、言葉が全て分からない状態でも、大まかな意味を汲みとりそれに「はい」「いいえ」「分かりません」の三つの表現さえ出来れば、大抵どうにか話は通じるのだということ。
前置きはさて置き、ファイは黒鋼がいなくとも多少ならば夜魔の人間と意思の疎通が交せるようになっていた。
状況に応じて、分かる単語を拾い上げれば相手の聞きたいような事柄を想像するのは難くない。
首を縦に振れば諾、横に振れば否。それ以外ならば首を傾げて「分からない」だ。
夜魔の兵士たちもそうしたファイの意思表示を受け取って他愛のない雑談や戦の話を聞かせる。
にこにこと笑みを絶やさない異国の射手は、最初こそ疑いの眼差しを向けられていたものの武功とともに受け入れられるようになっていた。
血気盛んな男たちが多いので話題は血生臭いことも多々ある。
だがそれと同じくらいの頻度で少々下世話な話題にもなるのだ。
生憎とその手の話題となると曖昧にぼかした言葉や隠喩が頻発するので、ファイには何のことを話しているのやら一切分からなかったりする。
だからその時も、ニヤニヤと笑う男が何を聞いているのかの真意なんて分からなかったのだ。
聞き取れた単語は「黒鋼」の名前と「寝る」の二つ。
言葉を話せない(ということにしてある)ファイへの配慮か、異国の人間への警戒か。いずれにせよ黒鋼とファイが一緒の部屋で寝起きしているのは事実だったので、とりあえずファイは頷いた。
途端に周囲がビシリと凍りついたように何とも微妙な空気になる。
もしかして自分は何かおかしな返事をしてしまったのだろうか。そう悩んだファイに、気をとりなおしたらしき兵士の一人がもう一度おかしな問掛けをする。
今度の問いは先ほどとは少し異なっていた。
ファイが聞き取れたのは「俺」という一人称と「寝る」という単語。
ファイは少し悩んだ。さっきの返事はもしかしたら間違っていたのかもしれないし、今度もおかしな受け答えをしてしまったらどうしようかと。
けれど同室で寝起きしているのは黒鋼だけだし、酔って広間で雑魚寝などもしたことはない。
急に移動しなければいけなくなった時のことを考えてだ。
暫く首を傾げていたが、やはり違うだろうとファイは首を横に振った。
うちひしがれたような男たちの姿を「どうしたんだろう?」と首を傾げて見ているファイは、とうとう最後まで、夜魔の男たちが何の話をしていたか気がつかなかった。