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原作設定小話です。夜魔の国。
思えば原作系の話が一番少ないってどうよ、と思いました。
夜魔アンソロ出るようで楽しみですv
ところで何故かブログに直接書き込めなくなってて焦りました。
コピペは出来るのに、入力しても反映されないのです。
不具合?
本当はアンケートの設置とかもしたかったんですが…。
忍者さん時々重い…。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ。
近く覗き込んだ瞳は夏の夜空のような漆黒だった。
外からの光を受けてちかちかと輝く黒を美しいと思いながら、彼の瞳が赤でないのが口惜しい。
そんなことを思っていたから、薄い唇が離れて、ようやく口付けをしたのだと気がついた。
あれ、と思う。それだけだった。
不快にも思わず嫌悪もない。なぜなら口付けた黒鋼本人に全く色めいた情欲というものが感じられないからだ。
では何故、と考えるよりも先にファイも部屋の外の気配に気づく。
壁を隔ててさえも感じ取れる気配に不振よりも先に可笑しさがこみ上げる。
こうも容易く存在を気取られている、そのことが相手の実力を如実に語っているのだから。
見られてることを承知で唇を重ねてきた黒鋼の意図も理解した。
落とされた夜魔の国。
客分とも傭兵ともつかない二人の存在はいまだこの国の兵たちから一つ浮いてしまう。
しかもファイは容姿からがことごとく異質だ。
肌の色一つとっても戦場には不釣合いな存在感は、容易く戦闘に高揚した兵の興味をひく。
圧倒的な実力差を戦場で見せ付けることで周囲の口を噤ませた黒鋼と違い、ファイの身が今のところ安全であるのは王本人が招きいれた戦士だということと兵同士の牽制のし合い。
男が圧倒的な多数を占める兵士の集団で同性同士の情交は珍しくない。無論、宴の酌女や町に繰り出しそれなりの代価を払えば買える妓女はいる。
だが独特の連帯感や興奮による勢いというものには咄嗟の歯止めが利かない。そして戦場を駆け抜ける戦士たちの同性間の性行為は実力や上下関係を誇示するためだけの見せしめとして行われる場合もあるのだ。
しつこく纏わりつく欲望めいた視線をあしらうためにファイがとった手っ取り早い方法というのが、黒鋼の傍にいることだった。
もともといつ小狼とサクラ、そして次元を移動するための手段を持つモコナと合流できるのか分からないのだ。おまけに黒鋼は夜魔の国の言葉を理解できたが、ファイはまったく分からない。離れていることの方が面倒は多かった。
黒鋼の情夫だと思い込ませることに成功すると、厄介はぐっと減った。
命は誰でも惜しいものらしい。
それでも、鼻の利く人間というやつはいる。
当然のことながら旅の同行者以上の関係はあり得ない黒鋼とファイの間に何事かおこるわけもなく、体を繋げた者同士がふとした折に生じさせるような艶めいた雰囲気には程遠い。
いつから疑われたものか、ここ数日は二人の関係を確かめるかのようにいつも何処かから視線を感じていた。
辟易としながら何か手を打たないと、と思っていたファイは、だから黒鋼の急な接近に気がつかなかった。
瞳の色を惜しむ間に重なった唇は、きっと壁や扉の隙間から覗いている男にもはっきりと見えただろう。
口付けよりも驚いたのは、ファイは一度も黒鋼に付け狙われていて困っているなどと伝えたことはないのだ。
(もしかして)
言葉が一切通じない自分を気遣って、ファイの知らないところでも見守っていてくれたのだろうか。
そんなことさえ考えてしまう。
信じられない話だが、そうとでも思わなければ、彼がこんなことをする理由が思いつかない。
間近で見交わす瞳がやはりいつもの赤でなくて、少しでも名残を探して覗き込むのだがそれはちっとも元の色の片鱗さえも見せてくれなかった。
自分で思っていた以上に黒鋼の瞳が好きだったのだ、とファイは思った。
黒鋼の瞳には揺らぎはなく、いっそ今の口付けがファイの錯覚だったのではないかとさえ思えてくる。
それが何やら業腹で、するりと逞しい胸元に身を寄せて、今度から自分から口付けたファイを黒鋼は拒まなかった。
やはり瞳は揺らがない。憎たらしいと思う一方で彼らしいと感じた。
苛烈なあの赤い瞳が今ほど恋しいと思ったことはない。
あの赤い瞳に見つめられたいと、ファイは初めて欲した。