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ストーカーだったり乙女だったり、化学教師は本当に幅が広い。
では下からどうぞー。
運動部顧問の黒鋼が弓道部で模範演習を行う、そんな話を当然のように聞きつけた化学教師がやってきた。
眉間の皺を隠そうともしない体育教師のご機嫌など意にも介さず、
「黒ぽん頑張れー」
などと能天気な声援を飛ばしている。
「妙な名前で呼ぶなっつったろうが!」
そんな二人のやり取りを弓道部員たちもいつもの光景として、微笑みながら見ていた。
さすがに黒鋼が弓矢を手にすると、皆口を閉ざし真剣な表情になる。
練習用、とはいっても下手な扱いをすれば怪我をしかねないものだ。下手をすればそれこそ命に関わる。
実際、確認を怠って的に刺さった矢を回収しようとした部員に危うく別の部員の射た矢が当たりかけた、などという笑えない話もあるのだ。
周囲の空気を読み取ってか、ファイも大人しくパイプ椅子に腰掛けて見ている。
黒鋼が弓に矢をつがえ、構える。
背も高く姿勢の良い黒鋼が構えたその姿は、切り取られた一幅の絵のようで、ファイは思わず息を飲んだ。
タン。
的に吸い込まれるように、矢が中心に刺さる。
二本目、三本目…。
無駄のない動きは、実際よりもゆったりとした動きのようにも見えた。
ファイも部員達もいつの間にか呆けたように見入り、その目の前で全ての矢は的の中央に吸い込まれていった。
「ありがとうございました」
「おう」
百目鬼がぺこりと頭を下げるのに軽く答え、黒鋼はファイの元に歩み寄った。
「おい、もう見学は終ったろうが」
部活の邪魔になるからさっさと帰れ、そう言おうとしてファイの様子がおかしいのに気がつく。
俯いてピクリとも動かない。
「おい」
怪訝に思い、膝をついてファイの顔を覗きこんだ。
何故か、化学教師は耳まで真っ赤になって、握りこんだ手がぷるぷると震えていた。
覗き込んだ黒鋼を睨もうとして、明らかに失敗した顔は微妙に涙目。
「…黒様、ずるいっ……!」
「は?」
いきなりそんなことを言われても黒鋼には何のことだか分からない。
「好きなのに…、格好良いから、また好きになっちゃうでしょぉ…」
今度は黒鋼が固まった。
しばらく、二人の間を微妙な空気が流れていた。
(この人たちって…)
あてられた生徒たちはいい迷惑だったのだが。