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では下からどうぞ~。
柔らかな白いシーツからは暖かなお日様の匂いがするのに、今はとてもとても苦しくて、頭までこっぽりと布団の中に埋まって体をぎゅっと縮こもらせる。
すぐ隣には同じように苦しそうに目をつぶった同じ顔の片割れ。
いつもは真っ白なその頬が赤いのは布団に潜り込んでいるからではなく、熱の苦しさのせいだ。
名前を呼びたかったけれど、喉が熱くて口を開けた僅かな隙間からはひゅぅと掠れた息が漏れて一層苦しくなった。
数日前、母親に連れられていつもどおり幼稚園にやってきた園児の一人の異変に四月一日が気がついたのは、お昼寝の着替えでだった。麻疹、という病気自体を知らないという若い母親はわが子の体調がおかしいのを風邪だと思っていたらしい。
その子を隔離した時には既に何人かに麻疹は広がっていたらしく、今日になってファイとユゥイが揃って急に熱を出した。
他の子に感染しないように保健室のベッドに寝かしつけられ、保護者のお迎えを待っている。
体調が悪くなると気持ちまで落ち着かなくなるのか、いつもは特等席のような気がしたベッドも何だか馴染めなくて、置いていかれたような寂しい気持ちが消えない。
四月一日先生が度々様子を覗き込んでくれるけれど、保育士の普段の仕事だってあるのに申し訳ない気持ちになってしまって、一層きゅう、っと体を丸めた。
病気なだけだと分かってはいても何故だか心が寂しくて寂しくて不安で心細い。
そんなことを考えているうちにじわじわと涙まで滲んできてしまって余計に喉が苦しくなった。
こんこん。
軽いノックの音の後にそろりと保健室のドアが開けられる。引戸を極力音を立てないようにして軽い足音が部屋に入ってきた。
ぽそぽそと小さな声で四月一日と誰かが話しているのをファイとユゥイはおぼろげに聞いていた。
お迎えだろうかと思ったけれど、両親とも今日は仕事で連絡がつかないと四月一日先生が園長先生に言っていたばかりだ。誰だろうとぼんやりする頭の隅で考えていると、ベッド脇のカーテンが前触れもなく開けられた。
「起きてたのか?」
ひょこん、と覗き込んできた黒鋼の顔にファイもユゥイもびっくりして布団を頭からはねのけてしまう。
黒たん、と呼ぼうとして喉が痛んで咳き込む双子の頭を黒鋼がなれない手つきでぽんぽんと叩いて落ち着かせる。
「寝てろって」
撫でてくれる手は小さくても温かくて、本当はもっと触っていて欲しいけれど、ファイもユゥイも懸命にその誘惑を振り払った。
「黒たん、ダメ」
「あっち行ってて」
本当は寂しくて、ぎゅってしてもらいたいのだけれど。傍にいたら黒鋼に病気がうつってしまう、と二人とも黒鋼を遠ざけようとして慌てて掌から頭を離そうともがく。
どうにか遠ざけようとした二人の意図を汲み取った黒鋼は逆に二人の掌をぎゅっと握り締めた。
「俺もう麻疹にかかったことあるから平気だぞ」
「…本当?」
「…うつらない?」
「うん、先生もここにいて良いって言った」
よかったぁ、と胸をなでおろす双子がようやく落ち着いたのを見て、黒鋼は二人の掛け布団を直してやる。
黒鋼だって園児なのだから、子供二人が楽に寝られるベッドサイズの布団を直すのは結構大変なのだが、病気の双子の体を冷やしてはいけないと頑張る。
布団を直してしまうと、双子が不安そうに見つめているのに気がついた黒鋼はベッド脇に椅子を引きずってきて腰掛けた。
「俺が見ててやるからお前らもう寝ろよ」
寝るまでいる、と宣言した黒鋼に双子は顔を見合わせた。熱で苦しいのも喉が痛むのも変わりはなかったけれど、不安や寂しさは綺麗さっぱり消えていた。
様子を見に来た四月一日の目に飛び込んだのは、「手を繋いでいて欲しい」と強請られた黒鋼が双子に挟まれて三人仲良く眠る姿。
窮屈そうにぎゅうぎゅうに体を寄せ合っているのに、皆穏やかで可愛らしい寝顔をしていた。