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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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20万ヒット記念フリリク企画です。
七瀬様リクエスト「黒ファイ特殊永住設定で、子供たちが突然いなくなり誘拐予告が届く。精神的に不安定になりながらも、2人で助けに行く」お話。

ちょっと長くなったので取りあえず分けます。
後編は仕上がったら今日中にアップしたいです。

拍手ありがとうございます。


では下からどうぞー。







領土の境目で小競り合いが頻繁になったと報告を受けたのは雪解けも間近の頃だった。
本格的に雪が解ければ、田植えが始まりどこの領民も皆そちらにかかりきりになる。そうなる前に豊かな領土から掠め取れるものは掠め取ろうと考えた不埒者どもがいたとしてもおかしくはない。
特に諏倭のここ数年の豊作は目を見張るものがある。また、人の力の及ばないことでも、領主の奥方がその魔力を惜しむことなくふるうので、大きな災害にも目立った被害がない。
自分よりも豊かな者を僻み、妬むのは人の常であるとはいえ、時としてその嫉妬は正しい道を踏み外すきっかけを作ってしまうこともある。
隣り合う領土の領主が、黒鋼が白鷺城と懇意にしているのを大層気にしているのだと風の噂に聞いていただけの頃は良かった。
だが、それがこのような形で出てくるとなると領主として捨て置くことは出来ない。春の訪れを前にして諏倭は領主を始めとし、忍、兵らが慌ただしく駆け回っていた。
当然幼い子どもたちはなかなか両親に構ってもらえなくなる。
声をかけようとして、忙しそうに立ち回る両親の姿にきゅっと唇を噛んだ子ども達を抱きしめてやっても、それはすぐに手放さなければいけないものだ。
いつもは妹たちの我儘を宥める息子の表情ですら、日に日に曇っていくことに焦り始めた黒鋼とファイがようやく一息つけたのはそれからしばらくしてのことだった。

領土の境界付近に兵を配置し牽制しつつ、相手方へは遣いをやって書簡を交わすこと数度。
要求を飲ませたうえで落としどころを見極め、相手に証文を書かせて黒鋼は館へと帰る途中だった。
しばらく放りっぱなしだった子ども達へ何か菓子でも買ってやろうかと考えると口元が知らず綻ぶ。
そうして馬を進ませていくうちに、黒鋼の目に奇妙なものが飛び込んできた。
何か大慌ての様子で馬を走らせる者の姿だ。それが館の方角からだということに、黒鋼は嫌な予感を募らせた。
嫌な予感ほどよく当たる。
程なく顔の判別が出来る距離まで馬を走らせた騎手はやはり館の守護をする兵の一人で、黒鋼の姿を見止めると即座に下馬して地に伏した。
何事かと問う間もない。
よほどの勢いで馬を走らせていたのだろう。馬を駆る本人の息もかなり荒く、どうにか言葉を発することが出来たのは水を飲ませてからだった。


館に戻ると真っ青な顔で今にも泣き出しそうなファイがすぐに黒鋼を出迎える。
黒鋼同様、ファイも数日領土の結界の見直しに奔走していたのだ。憔悴も隠しようがない。
だが、今はそれ以上に二人を焦らせるものがある。
子ども達の姿が館から消えた。
兵のもたらした報せに黒鋼は一瞬、怒りとも驚きともつかぬ衝撃が体を巡った。
どうやって馬を走らせたのかもよく覚えていない。とにかく早く戻らなくては、と思った。
その一方で頭の中では冷静な考えが巡らされる。領土の境を巡る争い。その隙をつこうと考えるであろう他の領土。領主と巫女の守りの手薄な館。人質として有効であろう領主の嗣子たち。
そして、最悪の事態の覚悟を済ませて、黒鋼は館の門をくぐったのだ。
ファイとて黒鋼同様にいくつもの修羅場を掻い潜ってきた猛者だ。その覚悟をしなかったはずはないだろう。
泣くのを耐えるその表情とは裏腹に、瞳の奥に凝ったような光が煌めいていた。
恐怖と、それを受け入れざるを得ない覚悟を互いが固めていることを無言のうちに確認し合う。

子ども達だけで姿を隠せるほど、館の守護も愚かではない。だが、何者かが攫ったにしても驚くほど何の痕跡も無いのだという。
黒鋼と大ファイ以上に半狂乱になったのは子ども達の面倒を見る侍女たちだ。自分たちが目を離したから、と己を責めて泣く姿に黒鋼もファイも責める言葉を持たない。
年嵩の侍女が、震える手で黒鋼に差し出したのは品の良い料紙だった。
子ども達が姿を消す直前まで遊んでいた部屋の文机に残っていたものだという。
若君の手習いかと思い、最初は誰も見向きもしなかったのだが、子どもの手習いではありえないその手蹟にさては侵入者の残したものかと騒いだのは黒鋼が帰る直前のことだった。
流麗な文字はさすがにファイには難しく、理解できない。
黒鋼がゆっくりと目で追う。ファイにも分かるように読み上げてその意味を、最初は誰も理解出来なかった。


「恋しくば…」

恋ひしくばたずねてきませ我が宿は若月のぼる白珠の里

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