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ばん様リクエストの「干支パロ」のお話です。
干支を調べて自分解釈を入れたらなぜかこうなったお話。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
お伽話があった。
ある日神様が動物たちに「年明けに挨拶に来たものの中から最初に来た十二匹を一年ごとに動物の大将にしてやろう」と言った。
そして選ばれた十二匹と、鼠に嘘を教えられ機を逃してしまった猫。
有名な十二支の話だ。
だれも真実だとは思わないけれど、そんなお伽噺にも――否、そんな昔のお伽話だからこそ含まれる真実の一端が存在するのだ。
子は始まりと終わり。万物の輪廻と循環を表すもの。
丑は萌芽の寸前。これから生まれ出でようとする生命。
寅は陽の芽吹き。生れ出でる太陽と伸びる草木。
卯は繁茂の活性。春爛漫の緑が大地を覆う時。
辰は陽気の充満。全てのものが成長する時。
巳は陽の極み。爛熟とその成長の静止。
午は陰陽の転換。陽気の極みが陰気に変ずる時
未は陰気の興り。陽の時を越えた万物の成熟。
申は熟成の重ね。滋味を蓄えその充実へと向かう。
酉は万物の完成。熟し極まり次の生命の種子を秘める。
戌は生命の潜み。次なる命のための眠りの訪れ。
亥は陰の極み。新たな芽吹きに力を蓄える時。
この世に存在する全ての事象。その循環の理を表すのがこの十二支だ。
動物を当てはめたのは後付けだがより親しみやすいそれが残ったのはある種必然であったのだろう。
何故ならば、面白いもの好きの神様はその動物名が定着すると、自分に仕えその理を維持する巫の一族にそれぞれの動物の呼び名を振ったのだから。
十二支の順番の通りに、それぞれの名を与えられた一族の中から一名、その年の巫が選ばれる。
月に一度社に籠り、神様の指示に従って神事の手伝いをする。と言っても時間的には座っていたりすることの方が多いのかもしれない。(神様曰く、理を適切に流れにのせるため巫の気を俗世に送っているらしいのだが)
辰の巫として一年間の務めを終えた黒鋼は、後任者に引き継ぎを終えると帰路へとついた。社から外へと出るとほっと安堵にも似た溜息が零れる。
その勤めは一年ずつの持ち回り。おまけにそもそも順番が十二年に一度のことなのだ。さして重労働ではない。それでも一年の間ずっとどこか気を張り詰めているところもあったのだろう
ちらちらと舞う雪に急かされるように足を速めて向かった先は、しかし精々徒歩数分の場所である。
巫の一族のために用意された屋敷だ。家庭を持ち、別の居を構える者もいるが、社勤めの者のほとんどがこの屋敷に住まっている。
社と住まいを分ける必要が果たしてあるのかと考えたが、勤めの場と生活する場所が同じ空気ではちっとも気が休まらないのは想像に難くない。
ついでにつらつらと、社の現世における役割と俗世との境の必然性について神様に説教されるのはちっとも有難くない。
考えながら溜息まじりに家の扉を開けると、可愛くないサイズの巨大な猫が飛びついてきた。
「お帰りなさーい、黒様ー」
「…」
やたらと間延びした声がふにゃふにゃと首のあたりで聞こえた。
巨大な猫だ。ちっとも可愛くない。
巫の一族に動物名を冠し、そして、ついでとばかりに神様が用意したのが猫である。
お伽話に後れをとってなるものか、という気概らしい。いらないだろう、そんな気概。
「だあって仕方ないでしょ?当時はこちらの大陸じゃ猫ってメジャーじゃなかったんだもの」
仕事明けのコーヒーを啜りながら、エジプトなら入ったかもね、と肩をすくめる神様とやらも随分いい加減だ。
社に大人しく座っていることが少ない神様はこうしても巫の屋敷で羽を伸ばしていることが多い。
「そしたら鰐とかトキと一緒に守護してたかもしれませんねー」
当の猫は随分呑気なものである。かなり強引につれて来られたようなことを聞いたのだが、当人はいたって長閑だ。
巫の一族の一人としてはこんな適当加減でいいのか、と頭を悩ませたくもなる。
「時代の流れよ。魔術や呪術なんてどれだけ混ざって今日まで至ってると思ってるの」
「国際化社会ですもんねー」
ねー、と顔を向きあわせて笑う神様と猫にどっと疲れの増した黒鋼に未の巫がそっと玄米茶を差し出してくれた。
すまん、と受け取ると眼鏡の奥で何か諦めたような疲れが垣間見えた。何となく、同類にも似た苦労性を感じ取ってしまう。
「お風呂沸きましたよー。黒鋼さんはお勤め上がりですから一番先にどうぞ」
パタパタと駆けてきたと子の巫が、労うように黒鋼に声をかける。そこだけ春の日向になったような明るい笑顔に、思わずホッとしたのは黒鋼だけではないようだった。
「お風当番桜ちゃんだったの。なんだか随分ご利益がありそうなお風呂ね。入ってっちゃお」
「…」
神様にご利益があるっていったい、と思わなくもなかったが、一族中でも屈指の巫と呼ばれる少女だ。たしかに普通の湯よりもなにか有難い気はする。
「なら先に入っていけばいいだろ」
さすがに神様よりも先に湯を使うのは憚られて黒鋼はそう言ったのだが。
「嫌よ、だって一番風呂の刺激はお肌に悪いのよ」
「オレも後でいいやー。老体に一番風呂はきついしー」
「この年になると大変よね、あちこちガタがきちゃうんだもの」
幾つだと尋ねるのも怖い会話を仲良く繰り広げる猫と神様に背中を向け、黒鋼は一番風呂をもらうことにした。
神様とその巫だと言っても、その実情はこんなものだ。大家と店子…否、大家族の呼び名の方が近いか、と湯船で黒鋼は独りごちた。
疲れはするが、まあ悪い気はしない。今のところ。