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頑張って薄暗くします。(嫌な宣言だな)
試験勉強してると時々、「でもこんなことやっても就職口ないよな」と不安になる時があるのですが、頑張ったことや勉強したことは自分の身につくのだと言い聞かせています。
言い聞かせないと不安なのはどうしようもないにしても。
どうしたら面白いお話が書けるかな、とか文章が上手くなりたい、と常々思います。
構成力、論理は壊滅的なのは自覚アリです。
でも日々のインプットとアウトプットを絶やすと今よりも低下するのは分かっているので、今は現状出来る目一杯を出していくしかないのだなあ、と思います。
最近がつんときたのは「どうしてもアウトプットはインプットよりも薄くなるのだから、読書は自分の書きたいものよりも濃いものを読む必要がある」という言葉。
吸収するものが濃度低いとどうしてもそれ以下しか出力出来ないので、もっと知識量増やしていかねば、と思いました。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ。
晴れ渡った空の下には整備された田園が広がる。
まだ冷たい水に足をつけながら農夫が田作りの準備をしていた。種を植える季節がやってくる前に、冬の間に雪の重みで壊れた用水路を直さなければならない。
田んぼの脇の細い畦道には子どもたちの群れはしゃぐ声が響いている。
ところどころが擦り切れた薄く粗末な着物だが、皆顔は明るい。満面の笑みだ。
疲れていても、仕事の合間に顔を上げると子どもたちのそんな笑顔が飛び込んできて、大人たちの顔も自然と晴れやかなものになる。
日の出の前から起きだし、暗くなるまで一日中田畑を耕す。そんな毎日の繰り返しだが、日々は平穏でそんなに悪いものでもない。
作物の出来不出来は天候に左右されるので、こればかりはどうしようもないが、ここしばらくは大きな戦も飢饉もなく平和に過ぎていっている。
仮にひとたび騒ぎが起こったとしても、このあたりは善政をしく国王の直轄地でもあり、王直属の兵や軍も近くに駐屯している。
辺境辺りでは魔物や領土同士の争いの話を聞くが、数年ほど前から忍軍が強化されたことにより、中央まで被害が出るような大掛かりな事態には発展していない。
崩れた用水路を直していた農夫はふう、と大きく一息つくと顔を上げた。長い間かがんでいたので背中が少しばかり痛む。しかし種蒔きまでにこうした手直しをしておかないと、いざ嵐や大雨が来た時にはたちまちにそこから全てが崩れていってしまう危険性もある。そうなれば被害は田畑全てに及ぶ。手を抜くわけにはいかない。
農夫が汗を拭った時、それまで雀の子を追って遊んでいた子どもらが山へと入る細い道へと向かうのが見えた。
「おい、お前ら。どこに遊びに行くんだ」
大声で呼び止めると固まって走っていた子どもたちが足を止めた。
農夫の子ではないがここいらの子どもたちならば全員赤ん坊の頃から知っている。村一つが大所帯の家族のようなものだ。
そこかしこで大人たちが立ち働いているので、誰かしらの目には止まるだろうが、子どもというのは時に大人には考えもつかないとっぴな言動をするものだ。
危険だからあまり森や山の深くには立ち入るな、と常々言って聞かせていはいるものの、念のために声をかける。
子どもたちもそれは心得ているのだろう。五、六人ほどの中で年嵩の少年が大丈夫だと農夫に手を振った。
「露草様のところに行って来る!」
「一緒に野草摘みに行こうね、って約束したの」
「干し柿を食べようねって」
「金柑の醂漬けがもうすぐ出来るからおいでって」
聞いてもらうのが嬉しいように、子どもたちが口々に農夫に答える。ああ、と納得した農夫が「暗くなる前に帰ってこいよ」と注意すると、元気よく頷きながら、行ってきます、と大きく手を振って駆け出した。
その背中を見送って、農夫もまた自分の仕事へを没頭し始めた。
村のはずれ、山の奥の朽ちかけた炭焼き小屋に奇妙な人間が住みつき始めたのは今から少し前のことだ。
住む人間がいなくなって久しい小屋だが、わざわざ奥まったところにある物を急いて壊そうという物好きもおらず、今まで放っておかれていたのだ。
朽ちかけた粗末な小屋でも山奥に入り、急な雨に難儀した時などには重宝する。
野犬や狐が住み着いては危険だとも何度かは取沙汰されたが、その度に特に差し迫った理由も無かったために壊されずに残ってきた。
そこにどこからともなく流れ着いた旅人がいつしか住まうようになった。
見知らぬ流れ者を警戒してしばらくは山に立ち入らぬようにしていた里人だったが、件の人物は里人に危害を加える風でもなく至って穏やかに暮らし始めた。
荒れた小屋を一つ一つ片付けながら寝起きし、手を加えて人が住めるように直すと小屋の周りに小さな花や野菜を植えた。
何のためにそこに住まったのか、いったいどこから流れてきたのか。詳細は分からないまでも、危険な人間ではなさそうなのが少しづつ分かると真っ先に興味を持ったのは小さな子どもたちだった。
親から「近づくな」ときつく言われていたのにも関わらず、好奇心旺盛な子どもたちは明るい昼間だから、と山奥の小屋へと忍び寄った。
度胸試しのつもりでもあったのだろう。得体の知れない人間の住まいに、気づかれないように誰が一番近づけるか、という他愛ない遊びに興じていた子らだったが、川から飲み水を汲んできた住人が帰ってきたところに鉢合わせてしまい、驚いたあまりに転んだ一人が怪我をした。
蜘蛛の子を散らすように他の子どもたちが走って逃げてしまうと、後にはその転んだ子ども一人が取り残される。
怪我の痛みと置いて行かれた恐怖に泣き出した子どもを、炭焼き小屋の住人は宥めて手当てをし、わざわざ村まで送り届けたのだ。
今まで遠巻きにしていた流れ者が子どもを背負って村まで下りてきたことに大人たちは驚いたが、その一人が懐いてしまうと元々人当たりの良い性格だったのだろう。進んで村に住むつもりはないようだが、住人らと馴染むのは早かった。
子どもの手当てに使った薬がよく効いたと聞きつけて、その人の作る薬を求める者も出てきた。小さな傷や少々の具合の悪さはその薬で治ってしまうので、わざわざ医者を呼ぶ必要がないと重宝される。
子どもらは珍しい遊び相手が出来たのを歓迎し、瞬く間に皆が懐いてしまった。
よく効く薬を無償で分けたり、飽くことなく子どもの相手をしてくれる人間がどう考えても悪人には思えず、最初は不審がっていた里人も徐々にその存在を受け入れるようになった。
幾度か里まで下りてきたことがあるが、その姿は一度見たら忘れられない。
美しい男だった。
男に美しい、というのも妙だが、そうとしか表現出来なかった。
柔和な顔は作り物のように整っていたが、けして女には見えない。不思議な、何か人間とは違う、別の生き物のようでもあった。
肩を少し越すくらいまで伸ばされた髪を首の後ろで一つに束ね、すっきりとした佇まいをしている。
城下で有名な役者と比べても遜色ないような優雅な容貌だった。
身の丈はすらりと高く、身のこなしは軽やかでどこか品があったので、どこかの高貴な出自でないかと村の女たちが噂しあった。
そして一度見たら忘れられない、というのはもう一つ。
彼の瞳は、それまで誰も見たことが無いような美しい色をしていた。
名を名乗らぬその人を、いつしか「露草」と呼ぶようになったのもそのためだ。
その人の瞳は、空と海とが凝って出来たような、美しい青をしていた。