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妄想の発端、というかこのシリーズが固まった時一番最初に浮かんだのはこの話でした。
とりあえず続きます。(長いから)
拍手ありがとうございます。
溜まったお返事、本日中にさせていただきますので少々お待ちくださいませ!
では下からどうぞ。
「…あっ!」
小さく悲鳴をあげた時にはもう遅かった。
片割れの声に慌ててユゥイが振り向いたその先には、腕から血を滴らせているファイがいた。
足元に転がる鋏。
聞くよりも先に、それを取り落としたのだと知れる。
鋭い刃物によってざっくりと避けた白い皮膚からはぽたぽたと赤い雫が零れる。
「大丈夫っ!?」
慌てて駆け寄って血を止めようとするものの、どうすればいいかユゥイにも分からない。
手ぬぐいをしまってある場所も咄嗟に思い出せないで、泣きそうになりながら鋏を小箱の中に片付けた。
「怪我…」
「ううん、…それよりも」
ファイが自分の怪我よりも心配そうに、血の滴った畳を見る。
「あ…」
ユゥイも顔を曇らせた。
ここは二人の家ではない。ただ、住まわせてもらっているだけなのだから。そこを汚してしまってはいけない。
もしかしたら、やはりこんな役に立たない子どもは要らない、そう思われるかもしれない。
怪我よりも何よりも、そんな風に見捨てられてしまうことが、今は一番怖かった。
「黒様が帰ってくる前にユゥイが片付けるから…、ファイはじっとしてて」
涙の滲んだ目をごしごしと擦って、雑巾を取ってくるために立ち上がった。
自分の着物の袖で傷口をぎゅっと押さえ、ファイも頷いた。
いつもなら黒鋼が引戸を開ける音で飛び出してくる二人の姿が無い。
待ちくたびれて昼寝でもしているのか、と考えた黒鋼は、耳に入った小さな足音でその考えを打ち消した。
とたとたと幾分急いているような足音だ。
たいした持ち物もない男一人が暮らすには充分すぎる家だが、それでも城勤めの人間にしてはかなり狭い部類に入る。
襖一枚隔てた程度の場所にいて、あの幼子たちが黒鋼に気がつかない、というのは妙な話だった。
さては悪さでもしているのか、と思いながら襖を開ける。
襖と桟の擦れる音にびくりと小さな肩が揺れて、金色の頭が二つ、揃いで黒鋼を振り返った。
「…!」
「…」
おどおどと瞳を伏せて視線を逸らす双子の態度に、黒鋼は僅かに眉を顰める。
だが、問うよりも先に、慣れた匂いが幽かに鼻を掠めた。
ごく微量な匂いだったが、黒鋼にとっては自分の生死を振り分けるものでもある。間違うはずもなかった。
血臭だ。
ずかずかと声をかけるよりも先に双子の傍らに膝をつく。
「おい」
黒鋼の声に肩を震わせたファイが咄嗟に何かを隠すように蹲った。そんな隠し事をしています、と言わんばかりの態度では何もかも丸分かりなのだが、本人は必死なのだ。
小さく舌打ちすると強引に痩せっぽっちの体を自分の方に向かせる。
「怪我してんだろうが。見せてみろ」
「…っ!!」
血の滲んだ袖を捲くりあげると、乾き始めた血が白い肌を赤茶けた色で汚していた。
「傷はこれだけか」
黒鋼の問う声に、上手く答えられなくてファイは唇を噛んで俯いた。痛いのか、怒られるのが嫌なのか、ワケが分からない涙が瞳の端に溜まる。
その隣でユゥイがぼろぼろと涙を零してしゃくり上げた。
「ごめ、んなさい…黒様帰ってくるまでに、そうじ、出来なくて…」
「おうち、汚して…ごめんなさい」
見れば畳には拭いきれなかったのだろう血の染みがこびり付いている。
ユゥイの手には雑巾が握られていて、本当なら一番大事な双子の片割れの怪我よりも、それを優先させようとしたのだと分かった。
この年の子どもなら、何よりも先に怪我を痛がって泣くはずなのだ。けれど二人の涙はそうではない。
小さな肩を震わせるその姿が痛々しかった。
「怒ってねえよ」
なるたけ優しく、怖がらせないような声をかけて黒鋼が二人の頭をぽん、と軽く撫でた。
ひくっ、っと喉が震えたかと思うと、もう堪えられなかったのだろう。ふぇっ…、と震える声が喉の奥から押し出されて、それから。
初めて、二人とも大きな声を上げて泣き始めた。
緩く、背中をさすってやると、小さな掌がおそるおそる黒鋼の袖を掴む。
黒鋼は構わず、したいようにとさせている。
やがてそれが許されたのだと分かったのか、双子は泣きながら、全身の力で黒鋼にしがみ付いた。