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次で終わるはず。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
あっと言う間に短い夏は訪れ。そしてまたあっと言う間に去って行ってしまう。
それでも、その僅かの時間に多くの輝きや実りをもたらしていくのだ。
きらきらと太陽の光を浴びて煌めく湖畔をファイとユゥイはのんびりと歩いた。夏に実る果実を籠に集めながら、だ。
それらを干したり、砂糖で煮込んで冬に備える。短い夏も、長い冬を越えるためだけにあるようなものかもしれない。
もう何度繰り返したか分からないような一年の繰り返しだ。
書物で読んだ「春」や「秋」という概念が想像も出来なくて、いつだったかの冬の日は、黒鋼が懸命に説明してくれる声を聴きながら、三人ぎゅうぎゅうと身を寄せ合いながら眠った。
彼の育った優しい季節の巡る故郷は今はどんな季節なのだろうか、と瞼を刺すような太陽の光と淡い緑の葉に思う。
足を止めてユゥイは湖面を見ていた。
「黒たんのこと思い出しちゃったー?」
「ファイもでしょう?」
「泳いでる間にひょいひょいお魚を捕まえてくるんだもーん。あれには関心しちゃったよー」
「三人分のお昼ご飯と晩御飯になったものね」
あまりに雪の時間が長すぎるから、まさか湖で泳いでみようなどと黒鋼が来るまでは思いもしなかった二人なのだ。
せいぜい湖など、水を汲みにくるか、仕掛けでもって魚を捕るような用途しか思いつきもしなかった。暑い時に少し足を浸けることはあったが泳ごうと積極的に考えたことはない。おかげで全くと言っていいほど泳げず、黒鋼には散々呆れた溜息をつかれた。
「今どこにいるのかなあ…」
口にするだけでに不意に泣きそうになるのはファイもユゥイも同じだ。
黙って中天の太陽を見上げる。
白く輝く太陽は、冬の曇天の合間を縫って地上におちてくる茫洋とした輝きではなく、まさに空に王者として君臨しているかのような存在感だ。
雪に長く閉ざされた大地は、短いその時間に精いっぱいの生命を育み、厳しい冬を越えていけるだけの蓄えを与えてくれる。久方の緑は瞼裏に優しく影を落としていく。
それなのに。
彼のいない初めての夏は、世界の全部が寂しさを纏っているような気がした。