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2月2日だからね。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
うららかな日差しがさしこんでいる。実に長閑な昼下がり。
ファイとユゥイはくあ、と小さく欠伸をした。
今日は小さいさんたちの定期検診の日。二匹に出番はない。
本当は小さいさんたちが注射される間傍についていようかとも思ったのだが、口々に「怖くないもん!」「平気だもん!」と抗議されてしまったので、診察室から出てきたのだ。
でもまあ、抗議はしていても黒鋼がついているのは拒まなかっただから何かあっても平気だろう。二匹はいたって呑気にそう考えた。
黒いの白いの合わせて四匹の診察と注射となれば、それなりに時間もかかる。
日向ぼっこを決め込みながら、二匹はのんびりと待機していた。
「あら、こんにちは。今日は診察じゃないのね」
いつも元気な受付のお姉さんが扉を開けて顔を覗かせた。
「こんにちはー」
「こんにちはー。あ!神威ちゃんだー」
受付のお姉さんの腕の中には艶やかな毛並みの一匹の猫。つん、とすましたその顔が、ファイとユゥイの顔を見た瞬間たじろぐ。
微妙に二匹の押せ押せモードが苦手らしい。
「今日は昴流がおでかけだから連れてきちゃったの」
仲良くしてあげてね、と神威を二匹の横に下ろすと、お姉さんはスタッフ用のエプロンをつけ始める。今日は午後からの仕事だったらしい。
ぱたぱたと軽やかに仕事を始めるお姉さんに置いていかれた神威はじり、と二匹から僅かに距離をとった。
無論、そんなものをものともしないのがファイとユゥイだ。
神威の顔を見たときからお話したくてうずうずしていたのだ。
ぱあ、と輝く笑顔の二匹に神威は回れ右で逃げ出したくなる。
「ねえねえ、封真君とはどこまですすんだのー」
「昴流君と先生に何か進展あったー?」
「進んでない、何も無いっ!」
悲鳴のようにぎゃわぎゃわと大声をあげる神威にお姉さんは「仲良しね」と語尾にハートマークがつきそうな軽やかな声で笑った。絶対面白がっている。
「先生も封真君も愛情表現捻くれてるから分かりづらいよねー。でも一回お任せしちゃうと結構楽かもよー?」
「違うよー。愛情表現じゃなくて、もともと感性自体が大幅にずれてるから捻くれて見えるだけで、本人的にはストレートな愛情表現の部類だと思うのー」
「そうだねー。それじゃあ神威ちゃんには分かりづらいよねー」
「で、それも踏まえてどうなのー?」
逃げようとする神威をがっちりと両側から押さえて、ファイとユゥイの質問責めは続いた。
「ちっくん、って痛かったの」
「びっくりしたの」
「でも我慢したの」
「でもね、ちょっぴり泣いちゃったの」
口々に注射の感想を述べる小さいさんたちを「わかったわかった」と宥めながら、診察室から出てきた黒鋼が見たのは、テンションの上がった二匹に挟まれてぐったりとする若い猫の姿だった。
たしか受付の人間の飼い猫だったと思う。
その人の弟と獣医のあれやこれやの人間関係と、更にはその飼い猫同士の複雑かつ単純な関係については、黒鋼は耳にタコが出来るほど毛玉二匹から聞かされていた。
ファイとユゥイが「じれったい恋バナなの!」とやたらとテンションの高かった話題だ。可哀相に、話のネタにされていたに違いない。
思わず同情の眼差しを向けた。
猫社会。色々あるけれど、これもまた平和の範疇。