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誰でしょう、5話位にまとめるとか言ってた人は。そんな人はいなかった、でいいよね。
…まとめるのは諦めました。気の済むまで書きますとも。(いつも計画性ないのを露呈しているので開き直ったともいう)
今日は東京から弟その1が帰ってきました。
姉ががっつり原稿とかオタク活動に勤しみたい休日に帰って来るんじゃありません。もうちょっとスケジュールを考慮なさい。
互いに働いているのでお小遣いは上げませんが兵糧はくれてやることにします。
レトルトカレーとか缶詰とか。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
当たり障りのない人付き合いはファイのもっとも得意とする処世術だ。
柔和な笑顔と柔らかな物言いは容易く人の警戒を解く。
卓抜した能力と技術力は瞬く間にひとの口の端に昇るが、実際の本人はというとおっとりとした優男にしか見えない。そのギャップも相手の虚をつく要因の一つだろう。
男を感じさせないファイ相手には女性士官の態度も軟化する。好みの差はあれど女性は基本的に年齢を問わず綺麗なものが好きなのだからだろうか。
女性的でもあるその造作を軟弱だと見下す同性も多いが、軽んじられている方が警戒されるよりよほど楽である。
その一方でひらひらと軽やかに人の間を飛び交う情報を、ファイは目敏く己の網に入れていく。
何のことは無い、いつもと同じ任務だ。
未だに正体不明の存在を除けば。
何度もアクセスしてみるものの、ことごとく弾かれる。
既にファイはこの基地全てを掌握できるほどの情報を手に入れている。敵対する国家や軍隊、それらと繋がっている企業。数え上げればキリが無い。皆が喉から手が出るほど欲しがる情報ばかりだ。
それなのに肝心の中核が未だに掴めないのだ。ファイの焦燥は募る。
勤務外のほとんどをその作業に費やしている。何度も違う方法から攻略を試みるも、最後の砦用意に侵入者を受け入れようとはしない。
くらりと脳の奥が歪むのを感じ、集中力の限界だと判断して端末の電源を落とした。
整えられた寝台に仰向けに倒れこみ、脳内で目まぐるしく渦巻く情報を整理する。
中規模の基地。過去の二度の戦闘。隠されている人物。
ぐるぐると回るそれらの中、唐突にはっきりと声を思い出した。
『この基地の軍籍を調べてみてもそんな奴は存在しねえ』
よく通る低い声がまるで耳のすぐ側で聞こえたように甦る。
はっとファイは目を見開いた。
黒鋼がはっきりと言っていたではないか。
軍籍には、存在しないのだ。
ファイの得意とする情報戦では、データとして登録されていない物を見ることは不可能ではないが難しい。
データとして登録されていない、いわば人の記憶や当然の認識、暗黙の了解といった情報にはしごく弱いのだ。
人の記憶や紙媒体の情報は脆い。けれどデジタルにおける改竄を防ぐため、あえてその手法をとることもないではない。時として幾重にも守られた電子の情報よりも、人の脳内だけに残された情報の方が重大な鍵となることがある。
「となると…」
ファイは唇を撫でた。乾燥してかさついているそれも今は気にならない。
誰をどう攻めれば情報までたどりつくことが出来るか。瞬時に基地の構成を頭に描く。
司令官、佐官、あるいは叩き上げの古株。
誰が、ファイの欲しがっている鍵を手にしているのか。どう篭絡すべきか。
何度もシミュレートを繰り返し、計算を繰り返す。
手がかりとはいえないきっかけを掴んだ脳は、疲れたままでそれでも自分に課せられた仕事をフル回転させ始める。
いつものことだ。自ら膝をつく、と定めた『彼』のため、今までファイが自分で選んで進んできた道だ。これからだってそれは変わらない。
そのためなら誰だって殺すし、この体をどんな手段でだって使う。
ファイにとってまったくそれはいつもの仕事だ。
けれど、何故か。
赤い瞳が頭をずっと離れない。
ここにいるはずも無い人間に、まるで睨みつけられているようだった。