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引き続きの誕生日へのお祝いコメントありがとうございます。
職場がらみのあれやこれやもご心配いただきまして恐縮です。
今の様子としましては…。
「辞める」と言わせたい上司と日和見な本社と「辞めさせたいんやったら『辞めろ』言うてみいや、おいこら」な従業員とが睨みあっています。かっこわらい。
では下からどうぞー。
画面に映し出された黒鋼の略歴はとうに頭に入っている。
幼少時に両親と死別し、その後の後見人の名が将軍の家名と同じであることをもう一度確認する。
遠縁、とひとくくりにしてもその付き合いにはピンからキリまでだ。他人も同然の付き合いしかない者もいれば、兄弟のように親しい交わりをもつ者もいる。
同じ家名による後見を受けている人間は多い。企業の社会貢献の一環として身寄りのない孤児への援助を行っており、得てしてそのような子どもたちが早く独り立ちするために職業として選ぶのは軍が圧倒的だ。
正式に軍人になるまでも訓練生として支給金がもらえ、優秀であれば士官学校への進学も叶うのが魅力だからだ。
てっきり黒鋼もそういった援助を受けた一人だと思っていたのだが。
そうでないのならば、彼から切り崩すという手もある。そうファイはひとりほくそ笑む。
彼一人を篭絡する方が軍の中隊大隊をまとめる佐官連中よりも楽だとは思わない。むしろ黒鋼一人の方が手に負えない獣のような気がひしひしとする。
その分、成功した暁には得られるものが他よりも大きいとファイはうっすら感じ取っている。
ファイは瞳を閉じ、スタートのスイッチをそっと押した。
軍内に警報が鳴り響く。侵入者の合図だ。肉眼では確認出来ない距離に不審な機体の群れをレーダーが感知する。
将軍の視察中だ。いつもよりも厳重な警戒が施されていたはずの基地に緊張が走る。非常事態を受けて勤務外の時間であったファイも当然のように己のデスクへと戻った。
ただし、その手が操るのは基地に備え付けられた端末だけではない。
危機管理に則った対処をしながらも、ファイはその一方で陽動により手薄になった箇所を的確に攻めて切り崩していく。メインコンピューターに偽りの信号を送り、誤った情報を基地内に駆け巡らせる。瞬く間に各所で混乱が起きた。
テロかと騒ぐ声の中、ファイは一人悠然とメインの防壁を崩す。目ぼしい情報が見つかっていない手探り状態のまま、ここまでの大騒動にしたのは始めてだったが時として大胆な策も必要だろう。そのための準備には緻密すぎるほど手間をかけてある。
何もこの基地のメインコンピューターを壊すことが目的ではない。貰う情報を得られればそれでいいのだ。無論回復した時にはファイの痕跡などまったく残ってはいない。
跡形も無い痕跡を必死で探している間に、やがてファイはその存在ごとここからいなくなる。
幾度もアタックを仕掛けては弾かれていた防御壁が、何かの弾みに崩れた。無数の0と1で出来た電子の世界で、瞬く間に構築し直されようとするバリアを突き崩し、ファイはようやくパンドラボックスの輪郭を引きずり出した。
コピーする時間ももどかしく一方で通常業務を、もう一方で侵入形跡のデリートを、そして障壁の破壊を、と自分自身のスイッチを切り替えながら複数のことを同時にこなす。どれ一つとっても気が緩み、些細なミスの欠片が出れば致命傷になる。けれど、それを完全にしなければいけない。
限りなく不可能に近いことをやってのける離れ業がウィザードの名を冠する所以だ。
永遠に続くかと思われた作業はある瞬間終わりを告げ、それと同時にファイも接続を断ち切った。
気を抜く暇もなく軍の緊急事態に焦った振りを装い、ファイは画面に次々と表示される警告や緊急の報告を処理していく。
唐突に始まったそれはやがてレーダーから不審な機体の陰が消えうせたことによって終焉を迎える。
すぐさま緘口令が布かれ、民間にその非常事態が漏れることは無かった。将軍を狙っての侵入であった、とも、姿をわざと見せた機体のあった以上探知されない別部隊の侵入への懸念などでしばらく基地は揺れていた。
しかし、結局それからは何事もなかったかのように半月ばかりが過ぎた。